おわり

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亘のお気に入りは、専務が彼に買ってきたものばかりだった。 第一位、ばかデカいライオン。 第二位、昆虫図鑑。 第三位、音の出る絵本。 最近では偉そうに ライオンに凭れながら、昆虫図鑑を読む なんとものほほん雰囲気を披露してくれていて 和むばかりだ。 蝶のページは興奮するらしく、反復喃語を連発する。 そういえば、ヒラヒラと舞うように飛ぶ蝶をよく 追いかけている。 「最近の図鑑は凄いな オレの頃のものとは比べもんにならないな」 ママママママママ、とバシバシページを叩く亘の 小さな掌の隙間から沢山の蝶が覗いていた。 「亘くん、ちょちょ、大好きだもんねぇ」 息子のほっぺたをフニフニとつつく悠の左手には マリッジリングがしなり、と輝いていた。 そんな息子は待ってましたとばかりに悠の胸元へダイブする。 大好きなおっぱいをこよなく欲する合図だ。 オレだって大好きだ、と、いつか宣言してやろう。 ペラリと図鑑を捲りながら 蝶の種類が凄まじく多い事に驚いた。 「……へぇ」 昨日、見たばかりの蝶にソックリなのもいる。 白地に黒の水玉を施した羽根。 脚は白く、先に黒いヒールを履いたような可愛らしくも 美しい蝶々だった。 オレの目の前で羽根を拡げ 全てを取り込むかの如く、腰を斑に揺すり 甚だしいほど善がり、翔んだその蝶々。 今は微塵もなかったかのように 息子に惜しみ無く栄養を与えている、女神。 「な、これ、夕べの悠みたい」 開いたページを指差して そのなんともお洒落な蝶を見せた。 覗き込んで、一瞬のうちに目のサイズを一回り大きくして 直ぐに微笑む。 物凄く、妖艶に感じたのは オレがいつも、いつも 悠を抱きたい、と思っているからだろうか。
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