おわり

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オレは知らない。 悠のその笑いの意味を。 きっと一生、知ることはない。 それで、いいと決めたから。 彼女も一生、オレに伝えることはない。 そうしてくれと、オレが以前伝えたから。 「寝ちゃった」 天使の寝顔だとは言うが 本当にその通りだ。 直ぐ傍の昼寝用布団に亘を下ろして 頭を撫でる姿は、母親の愛を溢れさせていて 美しくて 麗しくて そこに見え隠れする危ういナニかが彼女にたくさんの エフェクトをかける。 元々、彼女をオレの中に刻み付けたのは ソコだった。 見ず知らずの、訳の分からない相手に 身体を拐われそうになって そこへたまたま滑り込んだオレが その危ういナニカにヤられてそのままズルズルと 自分の嗜好を翳してきた。 悠を知れば知るほどその深みに嵌まり もう深淵まで辿り着いた気でいたが 実は、まだ、触りにも到達していないのかもしれない。 「い、た、る、さんてば!」 ハッと気付いて そんな危うさなんて全く見えない 両頬を目一杯膨らませた悠のド、アップが ばばーん、と登場。 「わ!」 「わ、じゃないですけど」 「なに」 「もう、なんか昨日からどこか変」 だろうな。 そして、その理由だってキミは分かっているんだろう? 「やっぱり 昨日の脚立のせいですか」 悠の眉がハの字に下がる。 ふう、と深く息を吐いて オレの隣に腰をおろした悠が、ポツリと呟いた。
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