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「その後もおばあちゃんの法事とかに顔を出したり、年に一回はお墓参りしてるの。だからその万年筆は、おばあちゃんの形見代わりに大事に持ち歩いていて。『ばあちゃんが『良いものを買ってきた』と言っただけあって、使い易くて書きやすい』って気に入ってるし」
「ありがとう、清香ちゃん。良く分かったよ」
一連の事を聞いて、浩一は顔を青ざめさせながら礼を述べた。それに周りの何人かは異常を感じたが、清香がきょとんとしながら問いかける。
「でも浩一さん、どうしてお兄ちゃんの万年筆の事なんか聞いたの? 真澄さんと同じで、書き易そうに見えたから、同じ物を買いたいと思ったから?」
「いや、そうじゃなくて……。清香ちゃん、多分それ、この前姉さんが踏み潰して壊したんだ」
「ああ、真澄さんが壊し…………、えぇえぇぇっ!?」
消え入りそうな声で浩一が告げた内容に、清香は目を丸くして絶叫し、聡も慌てて問い質した。
「浩一さん! それは本当ですか!? 一体どうしてそんな事に?」
「それが……、九月の定例取締役会があった日の事なんだが」
再び店内中の視線を浴び、営業妨害紛いの状態になっている事を店主の修に心の中で詫びつつ、浩一はその日高須から聞いたばかりの、九月に本社ビル前で起きた事件のあらましを皆に伝えた。
話が進むにつれて清香の顔色が変わって来ているのは分かったが、壊れた万年筆を清人が拾っていた所まで一通り話し終える。
「その事を、その場に居合わせて清人に恫喝された、姉さんの部下の高須さんに、今日の朝捕まって聞かせられたんだ。『柏木課長はうちの課長の実の弟さんですから、課長の害になりそうな事は口外しませんよね!? あの人が無茶苦茶怖いんですが、どうしても誰かに喋りたくて喋りたくて!』と泣いて縋られたから。一通り喋ったらすっきりして職場に戻って行ったから、言いふらされる心配は無いだろうけど……」
そう言って重い溜息を吐いた浩一に、清香が涙声で謝った。
「ごめんなさい浩一さん、それに高須さんって人にまで迷惑を。それに、真澄さん絶対気にしてるよね? そんな事だと知ってれば、口が裂けても佐和子おばあちゃんの話なんかしなかったのに!!」
「清香ちゃん、不可抗力だから、本当に気にしないで良いから」
「で、でも~」
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