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「ちょうど良いから向こうに行って、内藤さんの後妻に収まってみたら? 部長にもなれるんだから、悪い話では無いでしょう?」
「いきなり何を言い出すんですか……」
「あら、前々から考えていたのよ? 真澄位の跳ねっ返りは、落ち着いた年上の方に面倒を見て貰った方が良いでしょうし、何と言ってもあなたはもう三十四だし。いつまでも若いつもりでいても、初産では高齢出産の年齢に引っかかっているんだから」
「……お母様」
真澄のフォークとナイフを掴む手が僅かに震えている事に気付き、男達は顔色を失ったが、玲子は不気味な笑顔で話を続けた。
「でもその方は、もう大きなお子さんが居るみたいだから、無理に子供を欲しがる事も無いでしょうし、そういう方の方があなただって気が楽でしょう?」
「……私は別に、誰とも結婚する気は有りませんが」
絞り出すように告げた真澄の言葉にも、玲子は微塵も動揺せずに言ってのけた。
「そう言っていられるのも、あと何年かしら……。すぐに『結婚しない』じゃなくて『結婚出来なかった』と言われる様に」
「御馳走様でした!!」
そこでガチャンと叩き付ける様にナイフとフォークを皿に置きながら、般若の形相で真澄が立ち上がったが、玲子はのほほんと言葉を返した。
「あら、昨夜も食べなかった割には少食ね。ダイエットは身体に悪いわよ?」
「失礼します!」
吐き捨てる様に告げて食堂から走り出た真澄は、階段を駆け上がりながら悔し涙を流した。
(何よ! どうしてあんな事まで、言われなくちゃいけないのよ!! しかも私には年上が良いとか訳知り顔で、しかも清人君が言ったのと同じ事を!)
「悔しいぃぃっ……! こんな所、一分一秒だって居るものですかっ!!」
自室に戻るなりそう叫んだ真澄は、昨日から放り出したままのスーツケースに手を伸ばして開き、中の物を取り出して周囲に撒き散らし始めた。
その一方、真澄が食堂から姿を消した直後、流石に雄一郎が声を荒げて玲子を責めた。
「玲子! お前、真澄相手に何を当て擦っているんだ!?」
「別にそんな事は……。ただ余所様から見たらそうだろうなと思う事を口にしただけで。悪気はありませんのよ?」
(いや、今のは絶対、悪意の固まりだった……)
飄々と答える玲子にその場全員が頭を抱えたが、全て食べ終えた玲子が優雅にお茶を一口啜ってから、僅かに顔をしかめて言い出した。
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