第24章 氷姫御乱心事件

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 気の毒そうに息子に声をかけられた雄一郎は、久しぶりの電車通勤を体感する事になった。  真澄はいつもの出勤時間よりは早く家を出たものの、社屋ビル近くのビジネスホテルに部屋を取り、フロントにスーツケースを預けてそこの中に入っている店でモーニングセットを食べてから出社した為、始業時間ギリギリに職場に入った。 「……おはよう」 「おはよう、ござい、ます……」  謹慎明けの課長を明るく出迎えようと、真澄の部下達は揃って密かに気合いを入れていたが、あまりにも不機嫌、かつ物騒なオーラを背負いつつ出勤してきた真澄に、直感的に下手な事は言えないと判断し、静かに真澄の様子を見守りながら業務に入った。 「あの……、今日の課長、何か雰囲気が怖くありません?」  その年の新入社員の藤宮が、隣の先輩の高須に囁くと、高須も眉をしかめながら応じる。 「……怖いっつうより、もはや凶器だな。近寄ったら切れるんじゃないか?」 「どうしたんでしょう……。土曜日にハッピーバースデーコールをした時は、機嫌は良かったんですが……」 「お前そんな事してたのかよ。その時何か余計な事でも言ったんじゃないのか?」 「ちょっと高須さん。人聞き悪い事言わないで下さい!」 「高須さん、藤宮さん!」 「はいっ!!」  いきなり室内に響き渡った真澄の呼び掛けに、二人は反射的に立ち上がって真澄に向き直った。その二人を半眼で見やった真澄が、静かに冷たく告げる。 「……仕事中は、私語を慎むように」 「申し訳ありません」  口答えなどする気もなく、二人は声を揃えて深々と頭を下げてから椅子に座り直した。それを見た周囲の者達は、真澄の機嫌の悪さを目の当たりにして、黙って各自の業務に勤しむ。しかしそこで企画推進部二課に、招かれざる客がやって来た。 「やあ、柏木課長、頑張っているようだね」 「……どうも」  企画推進部の部屋は入り口から一番奥の窓際のスペースに、透明な壁で仕切られた部長室があり、そこから順に一・二・三課の順に簡単な仕切りで隔てただけで、所属する全員の机が並べられていた。当然出入り口から入って来て部長室に向かった清川の姿は、課員全員が視界の隅に捉えていたが、話を終えたらすぐに出て行くと思っていたところ、真澄の机に真っ直ぐに歩み寄り、絡んできたのである。 (げっ……、清川総務部長) (また課長に絡むつもりかよ……)
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