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(よりによって、何でこんな時に顔を出すかな)
(とっととてめぇのシマに帰れ!)
二課に所属する全員、仕事の手を止めないまま、常日頃真澄を目の敵にしている清川に心の中で毒吐いたが、彼らの目の前で清川は上機嫌に真澄に話し掛けた。
「何やら社長に諭されて、謹慎していたらしいが、きちんと気持ちは切り替えられたかね?」
「……お陰様で」
椅子に座ったまま、PCの画面を見つつ手を動かし続ける真澄に、横に立っている清川は一瞬ムッとした顔をしてから、嫌味っぽく続けた。
「ほう? それは良かった。この前は君の失態で、年間二千万の契約をフイにするところだったからねぇ」
「……ご心配おかけして、申し訳ありません」
「いやいや、偶々先方の部長が、私の大学の同期で助かったよ。彼が穏便に事を収めてくれたから、柏木の名前にも傷が付かなかったからねぇ」
清川がしたり顔でそう告げた時、二課の中で何人かが顔を強張らせて腰を浮かせたが、係長の城崎が無言で該当者を睨み付けて制した。それをチラリと見やってから、真澄が声を絞り出す。
「…………その際には、清川部長にはお骨折り頂き、ありがとうございました」
「これ位の気遣いなど、大した事は無いさ。それよりも柏木課長の今後の事が心配でねぇ」
「……心配とは、何がでしょうか?」
わざとらしく嘆息した清川に、真澄が精一杯忍耐力を発揮しながら静かに尋ねると、清川は半ば嘲笑しながら告げた。
「女だてらに仕事をこなしていたのは、流石に社長の娘だと感心していたんだがねぇ……。この前の事で分かったんじゃないのかな? 所詮女に管理職は無理だって」
「…………」
そこで真澄が手を止めて黙ってPCのディスプレイを見つめると、真澄のすぐ前の席の城崎がゆっくりと立ち上がり、清川に向かって冷え冷えとした視線を向けた。
「清川部長……、少しお言葉が過ぎると思いますが。仮にも管理職の立場にある方が、性別で能力の有無を判断した上それを公言するなど、柏木産業全体の見識も問われかねません。仮にも人の上に立つお立場なら、それを自覚されて口を慎んで下さい」
口調こそ丁寧なものの、二課はもとより企画推進部所属の全員が城崎が激怒しているのが分かり、とても口を挟む事など出来ずにおののいた。清川もその気迫に一瞬気圧されたものの、自分の優位を信じて気を取り直し、吐き捨てる。
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