第24章 氷姫御乱心事件

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「はっ! 女の下で嬉々として働く様なプライドの無い人間に、どうこう言われる筋合いは無いな! そっちこそ黙りたまえ!」 「……仰いましたね?」 「ああ、言ったとも。本当の事だ、何が悪い。第一、貰い手が無くて嫁に行けないからって、いつまでも会社にふんぞり返っている女の尻拭いを、毎回させられるなど真っ平御免だな。身の程を弁えて、高望みしないで適当な所に収まれば良いものを」 「うっせぇぞ、このうすらハゲ」 「は? 何か言ったかね、柏木課長」  横に座っていた真澄が唐突に何やら呟いた言葉を聞き取り損ね、清川が横柄な態度で真澄に尋ねると、真澄は勢い良くその場に立ち上がり、清川に向かって暴言を吐いた。 「聞こえなかったのか? うすらハゲっつったんだ! このボケチビゴマスリ野郎がっ!!」 「……なっ!?」 「…………」  常には有り得ない真澄の口調と暴言に加え、睨み殺しそうな視線を受けて流石に清川がたじろぎ、真澄の豹変ぶりを目の当たりにした部員全員が固まった。そして真澄は両腕を伸ばし、問答無用で一歩後退した清川の喉を掴み上げて絞め上げる。 「し、失礼だろう柏木課、うぐぁぁっ!」 「女は仕事が出来なくて、尻拭いが面倒で困るだぁ? はっ! 誰がてめぇみたいな腰巾着に、『面倒見て下さい』って頭下げた。あぁ!?」 「ぐぇぇっ! は、はなっ……」 「おい! ちょっと待て柏木!」 「柏木、落ち着け! お前達も黙って見てないで止めろっ!!」  ヒラ社員はあまりの事態に完璧に固まってしまったが、一課長の広瀬と三課長の上原、部長の谷山は、流石に肝の据わり方が違うらしく、血相を変えてそれぞれの席から真澄と清川の元に走り寄って叫んだ。しかし真澄の手を清川の首から引き剥がそうとした所で、広瀬と上原は城崎に腕を掴まれ、有無を言わせず真澄達から遠ざけられる。 「お騒がせして申し訳ありません、広瀬課長、上原課長。ですがこれは二課の問題ですので、お気遣い無く。すぐに解決しますし、ご自分の業務に専念して下さい」 「ちょっと待て城崎、取り敢えずこの手を離せ!」 「すぐ解決って、一体どうするつもりだ?」  自分の腕をしっかり掴んでいる城崎の手を引き剥がそうとしながら、広瀬と上原が焦りつつ尋ねると、城崎が事も無げに答えた。 「簡単ですよ。あの小うるさいボケ中年が、息をしなくなったら静かになります」
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