第25章 騒動の余波

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「以前暮らしていた団地で親しくお付き合いしていた、岡田さんと言う方の、娘さんの家に出向いてます。それで仏壇に手を合わせて、長い事拝んでいたとか。それで『携帯を忘れてお帰りになったので、お送りします』と、清香ちゃんに連絡がきたんです」 「えっと……、岡田さんって、例の万年筆の、あの人?」 「だよなぁ……」 「携帯を忘れるなよ」  顔を見合わせて呻いた浩一達に、恭子は淡々と続けた。 「連絡をくれた娘さんが仰るには『仕事のついでに寄らせて貰ったと言ってましたが、顔色がどことなく悪くて、長い事神妙に母の位牌に向かって拝んでいたので心配になって。まさか佐竹さん、どこかお悪いんじゃ無いですよね?』と、相当心配されていたそうです」 「……確かに頭は悪いな」 「浩一さん……」  苛立たしげに目を細めながら吐き捨てた浩一に、聡は思わず項垂れた。しかしそんな事には構わずに、恭子の報告が続く。 「それから昨日の話ですが、以前暮らしていた団地に現れて、住んでいた部屋を夜に暗がりから見上げていたそうです。住人の方が不審人物がいると通報しかけたんですが、念の為近くに寄ってみたら、見知っていた清人さんで驚いたとか」 「何で夜……」 「通報って……、洒落にならないぞ」 「マジで通報されなくて良かったな」 「寧ろ通報して貰って、警察に身柄を確保されれば手間が省けましたね。それ位だったら不審者リストには載るかもしれませんが、前科持ちにはならないでしょうし」 「…………」  冷静に突っ込みを入れた上、雇い主を容赦なく切り捨てる発言をした恭子に、男達は揃って黙り込んだ。そして苛立たしげに恭子が話を続ける。 「その日中、ご両親の遺骨を預かって貰っているお寺に出向いて、ご夫婦の為に読経して貰ったとか。法要の年でもないし突然一人で来るしで、ご住職が『突然いらして何も事情を語っていかれなかったのですが、そちらで何か悩み事がおありなんでしょうか?』と夜に電話を寄越されて。下手に心配をかけられないと、先生が今現在行方不明なのをご住職に何とか誤魔化して電話を切った後、『都内に居るなら連絡の一つ位寄越せ、馬鹿やろうぅっ!!』と、清香ちゃんがキレまくっていました」 「…………」  それを聞いたその場全員は、反射的に少し離れた座卓で先ほどから玲二と明良相手に、くだを巻いている清香を見やった。
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