第25章 騒動の余波

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「清香ちゃんには、二重の意味でショックだよな」  手にしたグラスがプルプルと震えているのに肝を冷やしながら、明良と玲二が同調すると、清香は再び座卓にグラスを乱暴に置きつつ絶叫した。 「あんのボケナスぅぅっ! 甲斐性無しのズンドコヘタレ! 相手限定チキン野郎! 帰って来たって、家になんて入れてやるもんかぁぁ――っ!!」  そう叫んでから清香は座卓に突っ伏し、「うわぁぁぁぁん!!」と堰を切った様に泣き出した。慌てて宥める明良達から視線を年長者達に戻し、聡が思い切ったように口を開く。 「その……、両親にも言われたんですが、このまま兄さんから直接連絡が来ないようなら、一応捜索願を出しておいた方が良いんじゃないかと……」  しかしその控え目な主張に、周りの者は難色を示した。 「聡君、流石にそれは……」 「一応、都内には戻って来てるみたいだし……」 「必要以上に、騒ぎを大きくしない方が……」 「その方が良いかもしれませんね。思い出巡りがつつがなく終了した後は、心置きなく入水するかもしれませんし」  その中でただ一人聡の意見を肯定した上、容赦ない事を言ってのけた恭子に、当事者の聡は勿論、他の者も一斉に顔つきを険しくした。 「川島さん!」 「言って良い事と、悪い事が有るでしょう!?」  しかしそんな責める口調もなんのその、恭子は真顔で主張した。 「最悪の場合を想定すると、と言う事です。失踪常習者ならともかく、いきなり行方をくらまして『ただいま』と笑顔でひょっこり帰ってくる可能性は、少ないと思いますが?」 「…………」  冷静に問い掛ける恭子に、思わず黙り込む面々。それに構わず恭子が事務的に話を続ける。 「取り敢えず、一週間は待ってみる事にしていましたので、明日まで待ってみて、明後日の月曜日に清香ちゃんと一緒に警察に行こうと思っています。何もしないで待っているより良いでしょう。何か異存がありますか?」 「……いえ、お願いします」  ピシャリと言い切られて反論できず、その場全員を代表して浩一が頭を下げた。すると恭子が苛立たしげに呟く。 「全く……、清香ちゃんと真澄さんを放ってどこをフラフラしてるやら。……帰って来たらシメるので、手を貸して下さいね?」 「………………」  いきなり視線と共に声をかけられて男達が返事に窮すると、恭子は冷え冷えとした視線と声音で再度迫った。 「返事は?」 「……はい」
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