第1章 発覚

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 十月末になったある日、清香から突然送信されてきた『お願い皆、話を聞いて! お兄ちゃんが怖くてなんか変なの!』のメールを目にした時、聡及び彼女の従兄達は(そんなの今に始まった事じゃないから)と思わず遠い目をしてしまった。  そうは思ったものの、一応各自個別に清香に連絡を入れてみると、清香は全員に対し、「もう訳わかんない! お兄ちゃん何やってんのよ! 会った時に直接ボコれば良いだけの話でしょーっ!」と何やら電話口の向こうで一人で興奮し、殆ど理性的な会話ができない状態だった。  その為、清香を心配しながら互いに連絡を取り合い、仕事帰りに《くらた》に全員集合する事にした一同は、今回は普通に営業している為他の客の目を気にしつつ座敷席の奥二つを占領し、まず清香に話すよう促した。すると口を開いた清香は、立て板に水の如く柏木産業創立記念パーティーで遭遇した出来事を、包み隠さず報告した。 「……という事があったの! すっごくムカつくでしょ? その斎木って人!! お兄ちゃんは『馬鹿の言った事なんか気にするな』って言ってたけど!」  清香が憤懣やるかたない口調と表情でそう訴えた後、「悔しいぃーっ!!」と呻きつつグラスに手を伸ばし、梅サワーをあおった。横でそれを見た聡が「そんな飲み方をしたら駄目だから!」と慌てて窘めるのを見ながら、周りで溜息が漏れる。 「本当に、感じが悪いね」 「もう感じが悪いってだけじゃ無いわよ! 存在自体、この世から消えてって感じ!!」 「……はは、そうだね」 (あのパーティーで、俺達が知らない所でそんな事が) (馬鹿かそいつ……) (良くもまぁ、清人さんに対してのNGワードを、これでもかって位言い放って) (その馬鹿、今、五体満足なのか?)  そんな事を考えていた面々だったが、一同の思いを代表して聡が不思議そうに声をかけた。 「それで清香さん、その事を話す為だけに俺達を集めたの? 兄さんを馬鹿にされて悔しいのは分かるけど、もう三週間経ってるし本人は引きずって無いと思うし、清香さんもそんな不愉快な事は早く忘れた方が良いよ? 今日は好きなだけ文句でも愚痴でも聞いてあげるから」  そこで清香はグラスを手放し、勢い良く聡の胸倉を掴んで至近距離から睨みつけた。 「聡さんっ!」 「な、何、かな?」 「話はこれからなの」 「うん、分かった。黙って聞くから……」
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