第1章 発覚

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「そ、それからっ! しばらく恭子さんが顔を見せなくて、連絡も取れないからお兄ちゃんに聞いたら、『取材を頼んだ』って。それで三日前戻って来た時に顔を合わせて、何気なく旅行先を尋ねたの。そしてこの記事を見てから検索したら、ここの本社や支社、子会社やお金のやり取りをしたって上がってる地名とピッタリ一致してて!!」 「旅行には良い季節だよね。仕事しながら観光もできる川島さんが羨ましいな」  そう言って「ははは……」と乾いた笑いを漏らした聡に、周囲の者は同情を禁じ得なかった。 (あぁ、聡君が現実逃避に走った) (付き合ってるなら頑張って否定してやれ、聡君) (流石川島さん、清人さんの下で働いてるだけあるよな~) (一体、どこで何をしてきたんだよ) 「ねぇ、聡さんっ!! 何とか言ってぇぇっ!!」  新聞紙を放り出し、再び聡の服を掴んで揺さぶってきた清香の手を押さえつつ、聡は気力を振り絞って口を開いた。 「あの……、清香さん。それはどう考えても気のせいだから」 「どうしてっ!!」  もう喚く寸前の清香に、先程から店内中の視線が集まっている事を意識しつつ、聡はなるべく穏やかに言い聞かせてみた。 「良く考えて。常識的に考えて、そんな重大事件に発展する様な事柄なら、捜査する方は何ヶ月、或いは何年もかけて下調べして、証拠を集めて逃れようが無くなってから逮捕する筈だ」 「言われてみれば、そうですね……」  やっと幾らか冷静になったらしい清香に安堵しつつ、聡がこの機を逃すかと畳み掛ける。 「兄さんとその斎木さんとは、約三週間前のそのパーティーが初対面で、他に接点も無いんだろう?」 「はい、その筈です」 「それなら、たかだか三週間で、一個人が企業の不正を暴いて告発するなんて、不可能だよ。偶々兄さんが不快な思いをさせられた直後に相手が逮捕されたからって、それが兄さんのせいだなんて有り得ないから」 「でもっ」  まだ不安そうな表情を浮かべている清香に、聡は明るく言い切った。 「川島さんの取材先も、偶々重なっただけだから。清香さんがそんなに心配性だったなんて、知らなかったな」  そう言って「ははは……」と笑いつつ、心の中で密かに(でも絶対兄さんのせいで、止めを刺されたと思うけど)と確信していた聡の顔をじっくりと眺め、清香も漸く表情を緩めた。
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