第2章 最初の読者

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「そういえば清香ちゃん、清人の事だけど」 「何ですか?」 「あいつが持ち歩いてる万年筆って、以前から同じ物?」  唐突に出された話題に首を捻りつつ、清香は素直に答えた。 「以前からって……、そうですよ? 大学入学の記念に貰った物ですから」 「そうか。大学の時に見た記憶が有ったんだけど、話を聞いた外観がそれと変化無かったから、そうじゃないかとは思っていたんだが……」  そういってブツブツと小声で何やら呟いている浩一に、今度は清香が不思議そうに声をかけた。 「浩一さんも真澄さんと同じで、お兄ちゃんと同じ万年筆が欲しいんですか?」 「いや、そうじゃないけど……。清香ちゃん、姉さんが清人の万年筆について何か言ってきたの?」  何故か微妙に険しい表情になって尋ね返してきた浩一に、清香は益々要領を得ない表情になりながら続けた。 「ひと月位前に、デパートの文房具のフロアで万年筆のケースの前で真澄さんと偶然会って、その時お茶をご馳走になりながら、お兄ちゃんの万年筆の話をしたんです。真澄さんからその事を聞いて無いんですか?」 「いや、何も。良かったらその由来を、俺にも聞かせてくれるかな?」  その申し出に、清香は快く頷いた。 「良いですよ? それをくれた人は岡田佐和子さんって言って、団地に住んでいた頃、うちの真下の部屋にご夫婦だけで住んでた人です。お兄ちゃんがお父さんと二人で住んでいた頃、小さいお兄ちゃんを頻繁に預かって面倒を見てくれていたそうで、お兄ちゃんが『じいちゃん』『ばあちゃん』って、凄く懐いていました」  それを聞いて周囲の皆は意外そうな顔をした。 「へぇ、そんな人が居たんだ」 「清人さんからは聞いた事が無かったな」 「外で皆と遊んでいるときは、遠くからニコニコ見てる位でしたしね。敢えて紹介までは、しなかったんじゃないかと思います」  簡単に説明をした清香は、更に話を続けた。
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