第2章 最初の読者

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「私も随分可愛がって貰ったんですけど、年長の頃におじいちゃんが体調を崩して、小学校に上がってすぐ亡くなったんです。一緒にお葬式に出たのを覚えているけど、お兄ちゃんがボロボロ泣いてて、それで」 「はぁ!? 兄さんが泣いた?」 「あの清人が!?」 「ありえねぇぇっ!!」 「うん。私もびっくりしたの。お兄ちゃんが泣いた所を初めて見たから……」  自分の台詞を遮り、皆が驚愕の叫びを上げた為、清香は一瞬それに動揺しながらも、何とか話を続けた。信じられない事を聞いて、呆然自失状態の面々がそれに黙って聞き入る。 「それでおばあちゃんが一人暮らしになっちゃって、広島に住んでた娘さんが心配して、自分の家に呼び寄せて一緒に暮らすって事になったの。その時、お兄ちゃんが受験生だったんだけど、おばあちゃんが引っ越しの日、見送りに出たお兄ちゃんに『少し早いけど清人君は合格確実だから入学祝をあげるわね。やっぱり手渡ししたかったし』ってそれをくれたの。『何十年ぶりかで銀座まで出て、良い物を買ってきたから。東京を離れる前に最後に良い思い出ができたわ』って嬉しそうに笑ってたわ」 「そういう物だったのか……。清人の奴一言も」  殆ど無意識に浩一が呟くと、清香は小さく頷いてから真顔で続けた。 「それでお兄ちゃん『ばあちゃんから入学祝を貰い済みなのに、万が一落ちたりしたら顔向けできない』って言い出して。当時すでに楽勝って言われてたのに、それから更に気合いを入れて勉強してたら、入学式では新入生代表で挨拶してたっけ」 「…………」  同じ大学出身の聡と浩一は、自分の受験期を振り返りつつ(その『ばあちゃん』の為に、気合い入れたら首席入学か……)と思わず複雑な心境に陥った。そんな二人の心中など分からないまま、清香が笑顔で話を続けた。 「それで入学してからはその万年筆で、おばあちゃんに毎週分厚い手紙を書いてて。時々読ませて貰ったけど、凄く面白いの」 「面白いってどんな風に? そんなに頻繁に面白い事が身近に起きるとは考えにくいけど」  素朴な疑問を口にした正彦に、清香が考え込みつつ答えた。
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