第2章 最初の読者

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「どんなって……。うぅ~ん、一言で言えないけど、道に落ちた枯れ葉が舞ってる中に世界が有るとか、噴水の水幕を透すと夢が煌めく、みたいな?」 「……はぁ?」 「えっと、つまり……、単なる近況報告とか情景描写の羅列とかじゃなくて、読む人間に考えさせたり、物語風にして読み込ませる様な感じの文章だったの。ごめんなさい、上手く説明できなくて……」  恐縮した風情で軽く頭を下げた清香だったが、何か察したらしい友之が小さく笑いながら口を挟んだ。 「なるほど……、それが作家(東野薫)の原点、っていうわけかな?」 「そうすると、その岡田さんが《東野薫》作品の初めての読者とも言えるのかも」  友之の後を引き取った玲二に、清香が我が意を得た様に力強く頷く。 「まさにそうですね!」  そうして一瞬穏やかな空気が流れたが、すぐに清香が沈鬱な表情でそれを打ち消す内容を口にした。 「それで、お兄ちゃんは佐和子おばあちゃんが引っ越してからずっと手紙を送り続けていたんですが、六年前に無くなって、二人でお葬式に出向いたんです」 「……亡くなったんだ」  思わずしんみりとした声で口を挟んだ聡に、清香が頷く。 「ええ。そうしたらおばあちゃんの娘さんから『母は毎週佐竹さんからの手紙を心待ちにしていて。それで『うちの人に清人君が立派な作家になった事を教えてあげるから、死んだらお棺に花の代わりに、貰った清人君の本と手紙を全部入れて欲しい』と頼まれたので、申し訳ありませんが入れさせて貰いました』って言われて」  そこで一つ溜息を吐いてから、清香がしみじみと続けた。 「それでお棺の中を見たら、本当におばあちゃんの周りに本と手紙がぎっしり詰めてあって。それを見たお兄ちゃんが、号泣しちゃって大変だったっけ」 「号泣って……」 「あの清人が!?」 「うん。おじいちゃんの時とは比べ物にならない位に。両親が死んだ時だって泣かなかったから、私、驚いて涙が引っ込んだ位だったし」 (六年前って言えば、小笠原前会長が亡くなった時期と前後するよな) (実の祖父には、生前に大量の仏花を送りつけたのに……) (遠くの親戚より近くの他人って事だな。離れてもそれは変わらんか) (清人さん、シスコンでマザコンだけじゃなくて、ババコンでもあったんだ)  以前に聞いた仏花事件を思い返し、その落差に唖然とするしかない一同だったが、清香は淡々と話を締めくくった。
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