121人が本棚に入れています
本棚に追加
/197ページ
「披露宴の参加者は、もれなくあの本を読んだでしょうが! 別れ際に『お兄ちゃんの馬鹿ぁーっ!』って泣きながら帰ったのを、清人も見たでしょう?」
咎める様に指摘した真澄だったが、清人は軽く首を傾げたものの、淡々と言い切った。
「……ああ、あれの事か。まあ、嫌いと言われたわけじゃないし、別にどうと言う事はない」
そう言って食事を続行した清人を見て、(そうだわね、そういう人間だったわね……)と真澄は挫けそうになったが、一応言っておこうと思っていた事を口にした。
「それに、小笠原家の人達が別れの挨拶をしに来た時……、小笠原さんが清人と言葉を交わしている横で、由紀子さんが何とも言えない微妙な顔付きで、黙ったまま涙ぐんで頭を下げて帰って行ったのが、私的にはもの凄くいたたまれなかったんだけど?」
「気にするな」
「気にするわよ! 全くもう……」
これ以上何を言っても無駄だと悟った真澄は、諦めて食事に専念した。そして終了後に呼び出したスタッフに皿を下げて貰い、リビングに移動してお茶を淹れて貰う。
そしてソファーに差し向かいで座り、お茶を味わいながら披露宴の話などをしてから、時計で時刻を確認しつつ清人が声をかけた。
「じゃあ今夜は早目に休むか。真澄は明日休みを取ってるが、明後日は普通に出勤するし、無理はしない方が良いだろう?」
「当然です。先にお風呂を使って良いわよ? 私、もう少しゆっくりしてるから」
「そうか? それならお言葉に甘えて、先に使わせて貰うか」
そんなやり取りをしてから清人はテーブルにカップを置いて立ち上がり、寝室に歩いて行った。しかし扉の向こうに消えてから一分もしないうちに、片手にパジャマらしき物を掴んだ清人が再びリビングに姿を現す。
「……真澄、ベッドの上にこれだけあって、お前の分のナイトウェアが置いて無かったんだが、どこか他の場所に置いてあるのか?」
清人が軽く突き出すようにしてきた物は、確かに男性用の肌触りの良さそうなシルクのパジャマで、真澄は不思議そうに首を捻った。
「え? 別に触ってはいないし、ベッドルームにまだ入っていないけど?」
「このランクの部屋には、それなりの物が備え付けてあるのが常識だろう。予約時に備品として揃えておくからと、二人分のサイズを聞かれて伝えておいたのに、一流ホテルの癖に怠慢だな」
最初のコメントを投稿しよう!