番外編 結婚披露宴迷走曲~可愛らしい妥協

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「わ、私だって、したくてしてる訳じゃ無いわよ! だけど色々心の準備って物が!」  真澄がそう叫んだ瞬間、清人の表情が物騒な代物にすり替わる。 「真澄……、ちょっとそれを脱いでみろ。ホテルで何か変な物をよこした訳では無いだろうな? もしそうだったら」 「違うからっ!! 仕組んだのはお母様だし!! だからお願いだから、ホテルに変な嫌がらせとかしないでよ!?」  バスローブの合わせ目に両手をかけられた事で動転し、その手を押さえながら真澄が叫び声を上げた、清人は動きを止めて真澄の顔を覗き込んだ。 「……真澄、お義母さんが何だって?」  その問い掛けに、真澄は無言のままゆっくりとバスローブを脱ぎ、中に身に着けている物を露わにしてから、身の置き所が無い風情でうなだれた。 「これなんだけど……」 「何なんだ……。そのやる気満々なベビードールは……」  呆れ果てた声を出した清人の視線の先には、胸の下で切り替えてギリギリ膝丈までの裾がふんわりと広がるデザインの、身体のラインがしっかり透けて見える薄ピンクのシフォンジョーゼットを身に着けた真澄が居た。全体の色は落ち着いた感じなものの、胸元は結構広く開いた所を、細いリボンを通して結びつけるタイプで、その隙間から胸元がしっかり覗き込める代物の上、袖や裾は繊細な黒のレースで、脇もざっくりと切り込みが入っているという、何とも扇情的な代物だった。  思わず清人が片手をベッドに付き、片手で自分の額を押さえると、真澄が慌てて傍らの紙袋の中を漁って、折り畳んだ紙を清人に向かって差し出す。 「や、やる気満々って……、そんな気は微塵も無いから! フロントに『ホテル備え付けのナイトウェアをお願いします』って頼んだら、この手紙と一緒にこれが入ってて……」  そんな僅かに涙をうかべつつの真澄の訴えを聞いて、清人は顔を上げてそれを受け取った。そしてそれを開いて中身を確認してみる。 『真澄、今日はお疲れ様。最後にもう一つ結婚祝いを贈ります。  披露宴案は作ったんだけど、やっぱり大げさな事だけじゃなくて、小さな雰囲気作りも重要よねと言う事で、これを昔、香澄さんと一緒に選びました。
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