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穏やかに頷いてから友之は踵を返し、応接間を出て二階へと上がった。勝手知ったる屋敷を迷わず進み、目的の部屋のドアの前に立ってノックしてみる。返答が無いのは想定内である為、友之は黙って室内に入り、バルコニーに続く窓を見やった。
窓の向こうに真澄の姿は無かったが、そこに近付くと、窓の横の壁に背中を預け、膝を抱える様にして中空を見上げている真澄を発見した。しかし次の瞬間、十一月も下旬にさしかかろうという、寒さが増しているこの時期にも関わらず、暖かそうなウール素材であっても、何も羽織らないワンピース姿である事を認めて、眉根を寄せる。しかし窓を開けた友之は、いつもの笑顔で真澄に声をかけた。
「真澄さん、こんにちは」
「…………来てたの」
対する真澄はチラリと視線を斜め上に上げ、素っ気なく答えた後は再び空を眺め始めたが、そんな態度に気を悪くする事無く、友之は真澄の横に片膝を立てて座り込んだ。
「ええ、来てたんですよ。ちょっとこれを渡そうと思って」
そう言いながら友之は右手でジャケットのポケットを探り、左手で真澄の左手を取った。そしてその薬指に、ポケットから取り出した指輪を滑らせる。煌めく石を付けたそれは、真澄の為にあつらえた様にその指にぴったりとはまった。
「ああ、やっぱりピッタリだな」
満足そうに呟いた友之だったが、真澄は自分の指にはめられた指輪を呆然と見やる。
「……友之?」
訳が分からないと言った風情で真澄が声をかけると、友之は続けて予想外過ぎる事を口にした。
「真澄さん、俺と結婚しませんか?」
「……いきなり何?」
何回か瞬きしてから、まだ固い表情で真澄が問い掛けると、友之は真剣な表情になって話を続けた。
「いきなりじゃありませんよ? 前々から考えていたんです。俺と真澄さんなら結構釣り合いますよ? 家格や財産は勿論、容姿や身長も。年齢は三歳下ですが、三十過ぎればそんな事は大した違いではありません。加えて気心は知れてるし、お祖父さんだって反対はしませんよ。どうですか?」
その友之の申し出に真澄は直接答えず、友之を見つめながら問い返した。
「友之……、私のどこが良いの?」
「優しい所、かな? 気が強い様に見えて、絶対に他人が嫌がる事はしないし、率先して行動する割には、自分の事を後回しにしてしまう所とか」
「そう……」
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