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「さっきスタジオで喉を触って気にされていたので、痛いのかなと思って・・・でも勘違いだったらすみません!」
ずっと小さな声でボソボソ話していた琉聖くんが今日一番の大きな声でそんなことを言うから、俺は内心の驚きをよそに思わずプッと噴出してしまった。
だって何だか、必死で可愛いんだ。
そんなに一生懸命になるほどのことじゃないのに、ほんのわずかだった頬の赤みがパッと見でわかるほどの色に変えて、ギュッと目なんか瞑っちゃってさ。
君はどうしてそんなに一生懸命なの?
「ありがとう。ちょっと喉がイガイガするなって思ってたんだ。遠慮なく頂きます」
「はい・・・どうぞ」
俺が笑顔でお礼を告げると、琉聖くんはホッとしたように肩の力を抜いて顔を俯けたまま微かに笑ったように見えた。
その小さな表情の変化がなぜかとても気になって、俺は引き寄せられるように腰を折って、俺とは目を合わせてくれない琉聖くんの顔を覗き込んだ。
「なっ、何ですか?」
急に近づいたせいか、琉聖くんは一歩後ろに後退して初めて顔を上げてくれた。意外と俊敏だった動きに『おー』と感心する。と同時にやっと琉聖くんの顔を正面から見られて、満足げな笑みが浮かんだ。
「他の誰も気付かなかったのに、よくわかったね」
また俯かれると寂しい気がして、俺は顔を近づけたまま琉聖くんの目を見つめて言った。俺の言葉が何のことを指しているのか瞬時に理解した琉聖くんは顔を上げたまま、視線だけを逸らせて小さな声で答えた。
「たまたま、です」
たまたまねぇ・・・まあ、たまたま俺が喉を触っている場面が目に入ったってことなんだろうけど、自分でも無意識に近い行動だし、一瞬のことだったはず。現にそばにいたマネージャーもカメラマンも、他の誰にも気付かれなかった。そんな小さな行動一つに気付いて、気遣ってくれるなんてさ・・・君もそうなんだ。
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