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「本当に申し訳ありませんでした」
俺が黙ったのを悪い方に捉えた琉聖くんはもう一度深く頭を下げて、俺が持つ衣装の上の飴を掴もうとした。
「待って。もらうよ!」
俺は咄嗟に言葉でそれを制して、取られまいと俺より背の低い琉聖くんが届かない高さまで衣装ごと持ち上げた。
「・・・そう、ですか?お気遣いさせてしまって、すみません」
「いや、違うし。気遣ってくれたのは琉聖くんでしょ」
「―――っ、りゅっ」
極々小さく叫ぶみたいな声を上げた琉聖くんは、咄嗟に掌で口元を押さえて一気に顔を赤く色付けた。
うん、この反応・・・わかりやすいね。
名前を呼んだだけなんだけど、そんなに動揺してくれちゃうんだね。
さっきは琉聖くんからの好意を示す態度が他の人のものと重なって嫌だなって思っていたはずなのに、それが嘘みたいに今目の前で顔を赤くする彼に負の感情は湧かなかった。そればかりか、何だかとても可愛らしく見えるんだけど。
「ふふっ、真っ赤だね。琉聖くんの方が熱あるみたい」
「い、いえ!そんなことはないです!えっと、撮影、17時に再開予定ですので、よろ、しくお願いします!」
琉聖くんの可愛らしさに思わず笑うと、琉聖くんは面白いように慌てて、しどろもどろになりながら一生懸命に連絡事項を伝えてくれた。その姿は何だかうさぎが飛び跳ねてるみたいで、ますます可愛らしくて俺は更に笑った。
「17時ね、了解」
あんまり笑っては可哀想かなって思いつつ、ニヤける顔は戻らない。それでも笑んだ声のまま了解を伝えると、琉聖くんは赤い顔のままガバッと頭を下げて『よろしくお願いします』とだけ言って、走り去ってしまった。
うん、走る後ろ姿も可愛いね。
あははっ、と一人笑い声を上げて、衣装の上に乗っている鼈甲色の飴を一粒、口に入れた。
「甘い・・・」
でもとっても優しい味がする。
琉聖くんみたいだな。
どうしてそう思ったのか、自分でもわからないけど無意識にそう呟いて、俺は心が温かくなったような気がして、小さく笑った。
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