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「お前ってさあ、たまにボーっとしてるよな」
2時間目の授業が終わり、教室にざわめきが満ちていく休み時間。
自分の席に座っていた僕の顔を、一人のクラスメイトがのぞき込んできた。
そいつは僕の隣の席で、自分の席に座ったまま、ぬっと体をこちらに伸ばしている。
「授業中、気がつくとなんか別世界に行っちゃってる感じ?」
彼はそう言って、大きな瞳をぎょろりと動かした。
つぶらな瞳というか。そんな幼さを残した彼は、模範的な野球少年で浅黒い肌に丸刈りの頭をしている。
僕はそんな彼に愛想笑いを浮かべて返答した。
「別に? そんなことないけど」
平然とした僕に、彼は丸刈りの頭をガリガリとかきながら、ならいいけどと不服そうに呟く。
彼は意外と人のことをよく観察しているのだろうか。僕が他人にそのことを指摘されたのは初めての経験だった。
僕はそこで、まだ何か言いたげな彼に僕至上最上級に爽やかな笑みを向けた。
「というかそもそも、なんで君は授業中に僕のことなんか見ちゃってるのさ。もしかして気があるの?」
残念だけど僕はお断りだなあと冗談めかしに言うと、彼は一瞬にして耳まで真っ赤になり、これでもかというほど首やら手やらをブンブンと振る。
「ばっ、おまっ、変なこと言うなよ! ただでさえ野球部は男ばっかりでいろいろ噂を立てられるっつうのに……」
「へえ、それってどんな?」
ニヤリと口角を上げてみせると、彼は真っ赤な顔のまま僕の机にバンと両手を打ちつけた。
「なっ……し、知らねえよ! おれは何も知らねえ!」
「あー、そういえば野球部の部長がやけに誰かさんをかわいがってるっていう噂を聞いたことがあるなあ。ま、確かに小柄なやつって、ヤりやすそうだもんなあ」
な? と目の前の彼にさらに笑顔を向けてやる。
すると彼は両手を握りしめ、みるみるうちにその小さな身体を震わせて。ああさすがにからかいすぎたかなあと僕がぼんやり思い始めたころ――
「だー! おまえ覚えてろよ! いつか絶対おまえの弱みを握って恥かかせてやるかんな!」
おれは巻き込まれただけだこのやろう! と威勢よく言い放った彼はそのまま教室から走り去っていった。
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