一章

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「じゃあ次なんだけど、得意な科目とかあるの?」 「ないんですけど、しいて言えば歴史ですかね」 「あら偶然ね。それとも、私の前だから?」 「いえ、本当に好きなんですよ。日本史なら明治時代の近代的な雰囲気が好きですね。世界史なら大航海時代がロマンがあって好きです」 式は目を輝かせながら語る。その言葉に偽りはなさそうだ。 「好きな歴史有名人はいるの?」 「そうですねぇ…エンリケ航海王子とか好きです。彼は大航海時代の重要人物の一人ですからね。いつか発見のモニュメントを見に行きたいなって思ってます」 「ポルトガル語は喋れるの?」 「喋れませんが、理解することはできます。喋るときは英語でなんとかなるかなあって…」 「ちょっと厳しいと思うけど」 と、佐倉先生は少し呆れているようだ。 その他にも式は様々な質問をされたが、式はほとんどの答えをはぐらかし、結局佐倉先生は式のことを深く知ることはできなかった。 出発してから二時間近くたった時に、 「あら、見えてきたみたいね」 と、佐倉先生が言ったので、式たちは窓をみた。 「あれが…」 「うん。俺たちが泊まる灯篭館。俺たちミステリーファンからは殺人館と呼ばれている」 松田が言った。心なしか、楽しそうに見える。 しばらくして車が駐車場に停まった。 「……」 車から降りた式の目に留まったのは、旅館の近くにある大きな紙灯篭だった。その灯篭を見た式は、言いようのない不安感に襲われた。
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