三章

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「では次の質問なんですけど、これは前から気になっていたんですが、紙灯篭の場合って紙に火が燃え移らないんですか?」 「もっともな質問だと思います。ですがご安心ください。この旅館にある紙灯篭は不燃紙で作られております。不燃紙とは耐熱性に優れ、自己消火機能を備えている紙のことでございます。簡単に申しますと、燃えにくい紙のことですね。仮に火が燃え移ってしまいましても、紙が自分で消火しますので少し色が変わるくらいで済んでしまうのです」 不燃紙のことを知らなかった式は、燃えない紙をつくれるなんて技術は日々進化しているんだなあ、と呑気なことを思っていた。 「ちなみに、こちらの紙灯篭も明かりは電球となっておりますので、その点はご安心ください」 「え、そうなんですか?」 「ええ。上のファンを開ければ中がわかりますので開けてみてください」 その言葉を聞いて、式ははじめてこの灯篭にファンがあることに気づいた。 「これってなんですか?」 「こちらはファンですね。電球の熱で発生した上昇気流がこのファンを回す仕組みになっています。このような灯篭を走馬灯といいます。旅館内にもいくつかありますのでぜひともご覧ください」 「私見ましたよ。魚の絵が描かれた紙灯篭が回っていてまるで泳いでいるかのように見えました」 「へえ。この後見てみようかな」 式は内心わくわくしていた。この旅館に来てからすっかり灯篭にはまったようだ。 式は台座に乗ってファンをとり、中を覗いてみた。中には電球があるだけで、他の紙灯篭と変わりはない。ただ、中は空間が広がっており、大きなものでなければ隠せるくらいの広さはあった。 「へー、中はこんなふうになっているんですね。一つ疑問なんですけど、どうやって明かりをつけているんですか?」 「事務室にありますスイッチを押してつけています」 「スイッチなんてあったんですか」 「はい。お客様の目線からですと古風な旅館に見えますが、私たちから見ますとそうでもなく、他の旅館とあまり変わらないと思っています」 見た目に似合わず、意外とハイテクな旅館のようだ。 と、そこで式は他にも聞きたいことがあったことを思い出した。
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