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「この旅館の噂はご存じですか?人が相次いで亡くなっていくという…」
「はい、少しだけなら」
「あの噂は本当でして、ここ最近、死亡事件が多発しています。ほとんどが自殺なのですが、他殺も少なくありません。月に3人ほど亡くなっておりまして、その影響かいつしか人も途絶えてしまい、集客も見込めなくなってしまいました。旅館のオーナーが、今年中には閉館する予定と言われてましたし…」
「そうなんですか…」
殺人が起きた旅館に泊まりたいと思う人は少ないだろう。
客が来なければ売上も出ない。売上が出なければ経営ができなくなる。そうなれば、閉館は免れないだろう。
式は、この旅館に来たばかりだが、結構気に入ってしまったので何とかしたいと思った。しかし、一高校生にすぎない自分に何ができるのだろうか。式は、自分がちっぽけな存在なんだなと改めて感じさせられた。
不意に、榊から声を掛けられる。
「式くん、もうすぐお昼の時間ですよ。あまり角田さんにも迷惑をかけるわけにもいきませんし、このくらいにしておきましょう」
「そうだね。角田さん、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
二人はお礼を言う。
「また何かございましたら、お気軽にお声をお掛け下さい」
角田は一礼し、立ち去る。
「それにしても」
榊が急に話しかけてくる。
「さっきの式くんはやけに饒舌でしたね。好奇心には勝てないということでしょうか」
「べ、別に…。前にも言ったけど、必要なこととかは普通に喋れるんだよ。相手の中に踏み込む内容の話が苦手なだけで」
「まあいいでしょう。その問題はこれから解決していけばいいのですし。それより、もうすぐお昼ですから早く食堂に行きましょう。お腹が空いてしまいましたから」
榊に手をひかれ、式たちは食堂に向かった。
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