序章

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榊は合宿が楽しみという感じだが、式は先ほどから俯いたままだ。 他学年との交流。 その言葉をきいて、式は不安になっていた。クラスでの友達もできない自分が、他学年の生徒と親しくなれるのだろうか。 「心配ご無用ですよ、式くん」 その様子を見てか、榊が話かけてくる。 「確かに初めて会う人と話をするのは少し緊張するかもしれません。でも、勇気をだしてください。最初の一歩を踏み出してしまえば、後は簡単です」 「榊さん……」 「あなたは他人とコミュニケーションをとるのが苦手、というわけではないのでしょう?」 「人と会話するのは平気なんだ。でも、プライベートとかの話は苦手なんだよ。どこまで踏み込んでいいのかがわからないんだ」 人は皆誰にも触れてほしくない領域をもっている。その領域に無意識に踏み込んでしまい、取り返しのつかないことになってしまうのが怖い、と式は語った。 「榊さんは、人と話すときどうしてるの?」 「どうしてるといわれましても……そのようなことは考えたこともありませんし」 「え……?」 「式くんは、考えすぎだと思いますよ。確かに触れてほしくない領域は誰にでもあります。しかし、仮に触れてしまった場合でも、きっと大丈夫ですよ」 「どうしてそう思うの?」 「人は誰しも良心をもっていますからね。怒らせてしまっても、心から謝罪して、誠意を見せればいいのですよ。本当に悪いことをした、という気持ちが相手に伝われば、相手もきっと許してくれるでしょう」 その言葉をきいて、式はようやく気付いた。 「榊さんが言いたいことがわかったよ」 「そうですか」 「榊さんの話を参考にして、俺は俺のやり方で人とコミュニケ―ションをとってみるよ」 「頑張ってくださいね。ではさようなら」 「うん。さようなら」 そういって、式と榊は別れた。
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