51人が本棚に入れています
本棚に追加
〝かいりゅう〟は二カ月前に就航し、処女航海と装備の調整を終えるとすぐに遠洋航海に出た。
選りすぐりの優秀な隊員が集められているものの、新型艦は従来と異なる設備と操作手順が多い。乗組員同士の連携も十分とはいえない。訓練とはいえ、勇気にとって気楽な航海ではなかった。
「荷物はなんですか?」
伊東が勇気の横顔に目をやる。その瞳に映る色は、お世辞にも好意的なものではなかった。
「水島三吾3佐、楠木光2尉、柳川友太3尉の特殊部隊三名。訓練は彼らの希望に従えということです」
勇気はタブレットの命令書を細い指でめくって見せた。
「特殊部隊なんて、何の役に立つのですかね」
伊東はすぐに、彼らに対する関心をなくし、壁面のモニターに眼をやった。
そこには艦橋のカメラから送られる周囲360度の風景が映し出されている。瀬戸内の波は小さいが、それでも冬に向かい高さを増していた。波間に、様々な種類の船が映る。
「船影多数。監視、怠るな」
勇気の凛とした声が響き渡り、乗組員たちの背中に緊張が走った。
最初のコメントを投稿しよう!