Ⅰ タックス・ヘイヴンの島国

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「本社機能確立まで三年、君が指揮を取ってくれ。本社機能が円滑に動き出したら、東京でもニューヨークでもベルリンでも、君の好きな場所に席を用意するよ」 社長は福田の手を握って言った。 日本では、来年のことを言えば鬼が笑う。まして世界企業の判断は、国際情勢によって刻一刻と変わる。一年先のことなど、計画はあっても思い通りになることはない。 それにもかかわらず社長は三年先のことを言った。 そんな先のことなど誰が信じるだろう。だが、信じていなくても、従わざるを得ない。それが会社員だ。 当の社長は、本社移転による利益倍増を成果として、莫大な報酬を得てさっさと退任した。 そうしてニューヘブン本社移転は順調に済んでも、東京にもニューヨークにも、福田が戻れる場所はなくなった。
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