51人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう三年は過ぎたわよ」
夫に日本に戻ることを催促する言葉は、千恵美の口癖だった。越してきたころには美しい海と空に喜んだ彼女も、一年も経つと刺激のないことに飽きて、文明から取り残されることの焦りを訴えるようになった。
「まだ、たった四年だ」
「三年の辛抱だって言っていたじゃない」
「会社にも都合がある。俺はこの島の暮らしも嫌いじゃないよ。つまらない駆け引きがなく、精神衛生には申し分がない」
福田は心にもない返事を返す。
「ああ、俊哉に会いたいわ」
千恵美は、福田の言葉に対していつも同じことを言う。俊哉は日本にいる初孫で、もうすぐ二歳の誕生日を迎える。
最初のコメントを投稿しよう!