Ⅰ タックス・ヘイヴンの島国

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「もう三年は過ぎたわよ」 夫に日本に戻ることを催促する言葉は、千恵美の口癖だった。越してきたころには美しい海と空に喜んだ彼女も、一年も経つと刺激のないことに飽きて、文明から取り残されることの(あせ)りを訴えるようになった。 「まだ、たった四年だ」 「三年の辛抱だって言っていたじゃない」 「会社にも都合がある。俺はこの島の暮らしも嫌いじゃないよ。つまらない駆け引きがなく、精神衛生には申し分がない」 福田は心にもない返事を返す。 「ああ、俊哉に会いたいわ」 千恵美は、福田の言葉に対していつも同じことを言う。俊哉は日本にいる初孫で、もうすぐ二歳の誕生日を迎える。
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