第1章

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 泣きそうになるのは相手が人じゃないからではない。ただ、もう会えないことが解ってしまったから。それが悲しくて仕方が無かった。ふと涙にぼやけた視線の先に大きな石が見えた。その石の下には紙が置いてある。  なんとなく石をどけて、その古めかしい紙を手に取ると、そこには綺麗な文字で書かれた古い手紙がそこにあった。 「嘘を吐いて御免。私の体はもうもたないんだ――。不思議な衣服を着た君が来た時には、日に日に背丈が伸びる君が来た時には、ここの神社の神様なのだと思ってしまった」 「私も貴方がここの神社の神様だと一瞬だけ思いました。人ではあったのですね」 「でも違うんだね。君は、君の手紙に書かれていた年号は意味不明だった。馬鹿な話だけれど、君は未来からやって来たのか。なんて思ってしまいます」 「貴男は過去の人……そうじゃないと貴男の古めかしい姿は到底納得がいかないです」 「不可思議なことに君がここに来た七日間、昼頃になると私の周りには誰もいなくなってしまうのです。その後、君が現れてるのです。それも日に日に大きくなる君はとても可愛らしかった」 「貴男と私が出会えるように神社の神様が私達の時間を捻じ曲げちゃったんでしょうか。貴男はずっと変わらない貴男でした」 「君がこの時代の人ではないのを確信したのは、君が六日目に来た日、階段から滑り落ちた君の手を掴もうとした時、咄嗟に出た手は確かに君を掴んでいたのに。すり抜けたのです」 「ああ、貴男は助けようとしてくれたのですね」 「境内ではお互い触れ合えたのに不思議ですね。あの後、君を抱きしめて謝ったのは聞こえていたのでしょうか?」 「聞こえてますよ。でも、貴男が謝ることではないはずです」 「あの後、私は必死に君の無事を祈っていました。するとまた不思議なことに不可思議な姿の女性が現れたのです。ボロボロになった君の身体に手を置いた女性がいたのは覚えていますか?」 「その辺りの記憶はないんです」 「あれは、きっと神様だったと思います。だって、女性が触れた後に君の傷はほとんどなくなったのですから。ただ、きっともう会えないと思っていました。だって神様が私達のすれ違った時間に気づいてしまったから」 「それでも、昨日。貴男にとっても昨日。会えましたね」
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