第1章

5/11
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 父が帰ってきたあと、祖母が亡くなったことを父と話し合った。生憎、父は明日も仕事があるそうで葬儀にはどうしても出られないらしい。  私と母だけで葬儀に行くことには特に抵抗もなかったし、父が葬儀に出ないのを薄情だとも思わない。ただ母は少し不満そうだった。  話し合いが終わったのは二十四時過ぎだ。部屋のなかで私は明日持っていく物を準備し終わるとぼうっとしていた。  ――そろそろ寝ないと明日が辛いかな。  そんなことを考えてはいるものの、眠気はやってこなかった。手持ち無沙汰な時間に悩みながらふと、彼に会わないまでも手紙をあの神社に置いておくことくらいはできるだろう。そう思った私は机の引き出しから長らく使われていなかったレターセットを取り出した。  机に向かい、どう書こうか悩む。それと同時に葬儀なのにこんなことをして不謹慎ではないか。という罪悪感を感じていた。それでも、この機会を逃してしまったら、もう二度とあの神社には行けないかもしれない。なんとなく私の胸にはそんな予感めいた気持ちがあった。  なんとか手紙を書き終える頃には窓からは夜の暗闇ではなく朝を告げる光が部屋の中を照らし出していた。  ああ、しまった。結局寝られなかった。こうなったら行きの新幹線で少し仮眠を取ろう。洋服を着替えて喪服などの必要な物をカバンに詰めて下の階に持っていくと、まだ五時だというのに母は既に起きて準備をしている。 「おはよう。お母さん早いね」そう言うと母は私がこんなにも早く起きてきたのを驚いたのか一瞬、ビクッと体を震わせてから「あんたちゃんと寝たの?」と心配そうな表情で私を見てきた。 「そのセリフはこっちのセリフだよ。お母さんこそちゃんと寝られたの?」 「それがね、今日のことを考えると中々寝られなかったのよ。ほら、家事とか全部お婆さんがやってたでしょう。お爺さんだけで暮らしていけるのかなって不安でね」 「今の時代ならヘルパーさんとかもいるんだし大丈夫じゃないかな。それに、お爺ちゃんの親戚って結構多かったような気がするけど」 「まぁ、そうなんだけどね……しばらくは様子みてお爺ちゃんのところにいようかしら」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!