第1章

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 それも一つの方法だなぁ。と思ったけれど、そうなると私は良いとしてお父さんが生活できなくなってしまうような気もする。そして結局は、今、考えたとしてもどうしようもない。という結論からその話はここで終わりになった。  それから、新横浜発の新幹線に乗り私は八年ぶりの田舎へとやってきた。当時は田舎がどこにあるのか解らなかったけれど、新横浜駅から下関市の小倉駅に到着して、そこからワンマン電車にゆられながら無人駅へと到着した。  電車から降りてみると一気にむわっとした草の香りが鼻に入る。田んぼだらけのそこは、どこか懐かしいようで新鮮な気分になる。 「ここから歩き?」 「何言ってんの。ここから歩いていったら大変よ。今、タクシーを呼ぶから待ってなさい」  そう言うと母はどこかに電話をしにいってしまった。その間暇になった私は、近くにバスが出ていることに気づいた。しかし、時刻表は殆どがまっさらで朝と夕方に数本出ている程度だった。  舗装されている駅の周辺には開いているお店はなく、近くのコンビニまではかなり歩いて行かないと到着しない様子だ。この状況でどうやって暮らせるのだろうか。私が疑問に思っていると母は電話を終えてかこちらに戻ってきた。 「今日は夏日ね。少しくらい雲があったほうが良かったんだけど」 「そうだねぇ、セミの鳴き声が聞こえそう」 「ここは余り変わらないわね。昔はそこが駄菓子屋さんでここに来るたびに貴方にお菓子を買ってたのよ」  そんな話をしていると遠くの方から黒いタクシーが一台だけやってきた。私たちは話を切り上げ乗り込む。母は聞いたことのない住所を運転手さんへと伝えた。何もない、田んぼと山だけの道をタクシーが通り過ぎていく。 対向車もいなければ先に走る車もいない。途中から舗装されているものの、コンクリートが欠けていて段差がある道路へと入り、車酔いしないように私は遠くを見ながらやり過ごした。そんな時間が十五分ほど続いて、ゆっくりと車は一軒家の前で止まった。  記憶におぼろげではあるものの、懐かしい。そんな気持ちが私の胸をいっぱいにさせる。喪服を入れたカバンをもって辺りを見回すと、家から神社まではかなり遠かった記憶だったのに、すぐ向かいの坂の上にいつも行っていた神社があることに気がついた。
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