第1章

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 その言葉に返事をしないまま、私は奥の部屋へと入ると溜まった怒りを昇華しようと彼のことを考えた。  その日の晩は母と共に寝ることになった。布団に入った母に私は布団の中から思い出話を話してみた。 「そう言えばよく、ここに来た時は神社でお兄さんと遊んでもらったけど、あの人どこの家の人なの?」 「何言ってんの。あんたが小さい頃にはここも爺さん婆さんだけで若い人なんていなかったわよ」 「え。でも小さい頃よく神社で遊んでもらってたんだけど……」 「狐にでも化かされてたんじゃない? あんた、そのせいで怪我して大変だったんだから」  ああ、その話をしたいんじゃない。私の怪我が大変で心配した話なんて昔から聞いていた。聞き飽きていた。それでも、母の言うことが確かならあの青年はどこから来たのだろう。  もしかしたら本当は神社の神様なのかもしれない。そう思っているうちに「神社に行くのは構わないけど、怪我はしないでよ」と母は言って眠りについてしまった。  その夜は不思議な夢を見た。あの神社に社務所があって、着物を来た人たちが神社の本堂の中でお祓いをされている夢。私はただ本堂から離れた境内でただ見ているだけだった。  その中にあの青年見つけて私ははっと驚いた。  その瞬間、私は上半身ごと体を起こしてしまったらしく起きた状態で目を覚ました。既に朝日が出はじめていて、近くから雀の鳴く声が聞こえる。なんとなく、嫌な胸騒ぎがした。  部屋を出てみると祖父たちは広い畳部屋で雑魚寝をしている。時計を見ると朝の四時半を過ぎた頃だった。  寝ている人達を起こさないように私はそっと玄関の扉を開けると、そのままの足で神社へと向かった。階段を急いで上り、境内の中に飛び込むように入る。閉まった本堂の前にやってくると、息が切れているのにやっと気がついた。「もしもし。あの――起きていませんか?」  そっと本堂の扉に手を置く。 「……」  返事はない。いや、そもそもおかしいはずだ。病なら今の時代、神社の中に入れるなんてしない。  ギイッと扉がゆっくりと開く。  じゃあ彼は誰なんだ。ゆっくりと開ききった本堂の中は既に大半が朽ち果てていた。私はよろけながらその場に座り込んでしまった。 「貴男はいったい誰だったんですか」
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