第一章

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「前々から言うべきだと思ってたんだが――」 ふたりきりのときだった。 彼は僕にそう切り出した。 「おまえの発言は薄っぺらい」 「……薄っぺらいですか?」 「そうだ、薄くて聴くに堪えない」 元々あの人の住むこの家には、彼が先に住んでいた。 その後、あの人に見初められてボクはスルリとこの家に入り込んだ。 今はリビングの良い場所に座ることができている、彼を押しのけて。 「ボクだって厚みが出せるよう努力しているんです」 「無理だな。根本的に不可能だ」 はっきり言って、その通りだった。 弱点を克服しようとした努力の過程が、僕の弱点をより明らかにしてくれていた。 かといって、僕に長所がないわけではない。 長所があるから、僕はこの家に居場所があるんだ。 「でも僕の目はあなたよりもクリアに物事を見つめていることができていると思ってます」 「確かにオレの目は老いたかもしれん」 そう言って彼は沈黙した。 その時間の経過が意図されたように感じられて僕は怖かった。 ――そして彼が言った。 「おまえの目には深みが欠けてるし、急転する事態に上手く対応できないだろう」 「いや、そんなことはありません。随分良くなりました」 「ほう?」 「これでもかなり努力したんです」 「響く響く響くねぇ、そのペラペラの声」 彼は笑った。 僕とはちがう、深く底に響く音をもった笑い声だった。 その笑い声は中途半端に切れた。 彼はポツリと言った。 「すべてが薄っぺらいんだよ」
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