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今まで年長者の彼を僕はずっと敬っていた。
でも、ここまで言われると、さすがに我慢がならなかった。
この家に住む理由は一緒だったが、彼と僕のやり方はちがった。
ふたりが一緒に組むことなんてナンセンスだったし、片方がいれば、充分のはずだった。
なにより、僕のほうが彼よりもあの人に喜んでもらえる力があったから、僕はここにいるのだし、彼は家からは追い出されてもおかしくはなかった。
追い出されなかった彼の居場所は隅っこだ。
所詮、彼はそんな存在。
僕をバカにするなんて彼の嫉妬心、その裏返しでしかなかった。
「そう言っても、あなたはもうあの人にとっては二番目ですよ」
彼が返答するまで、すこし間があった。
「……そんなことはない。一番だ」
「本当ですか? あなたは捨てられないぬいぐるみと同じ、ノスタルジックな存在ですよ」
「ふざけたことを抜かすな。存在理由が明確になっただけだ。適材適所というものがあるんだ」
「存在理由? 適材適所? それはあの人が特殊な趣向の持ち主だからでしょう」
「……おまえ、侮辱したな、あの人を!」
激しい怒りの声だった。
僕は意に返さず、続けた。
「あの人を侮辱なんてとんでもない。あなたを今でも度々使っていることが素晴らしいと言っているんです」
「それが侮辱だと言ってるんだ。あの人によく使われているからと言って思い上がるな」
「いやぁ重いですね。重いって言われませんか。ホント、あなたは図体ばかりが大きくて、存在感がない」
「なにを言うか。軽薄なおまえなんか存在感なんて皆無だろうが」
僕は、短い笑い声を薄っぺらく響かせた。
「そういうあなたは、今ではひとりでなにもできないじゃないですか。誰かの手を借りないと、あなたの存在は置物でしかな――」
玄関扉の開く音がした。
「ちょうどいいですね。今後のお互いの関係のためにも確認しましょうよ。どちらかあの人に一番必要とされているか」
ふたりは、あの人がリビングに近づく足音を聞きながら、テーブルを見つめていた。
そこには液晶テレビとブラウン管テレビのリモコンがある。
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