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「お母さん、俊来た~」
由香里に続いて、
玄関を上がって右手のリビングに入る。
おばさんは台所から顔だけ出して俊一を迎えた。
「俊ちゃん、よく来たわね~。
座って座って。」
おばさんが大盛りの料理をテーブルに運んで来る。
「あの、これ母さんから預かりました。」
俊一は家から預かったビニール袋をぶらりとおばさんに手渡した。
「そんないつも別にいいのに~」
おばさんは袋を覗き込むと、
「後でみんなで食べましょ。」
と、ウインクした。
「お兄ちゃん!」
目をキラキラさせて幼稚園に通う歳の離れた妹が駆け寄って来た。
「花~すいませんいつも。」
俊一が頭をさげるが
橘家の人達は何を今更水くさい。と笑った。
「俊ちゃんが、そんなこと言うほど大人になったのねぇ。」
おばさんが口を押さえて笑っている。
「花、いい子にしてたか?」
「うん!」
「花はいい子にしてたな。」
隣に座っていたのは、由香里のお兄さん。
大学院生の直兄だ。
浅い色の髪に、黒縁眼鏡をかけている。
「直兄?」
「久しぶりだな、俊。」
直兄は俊一の憧れの年上のお兄さんだ。
昔からなんでも卒なくこなしてしまう。
直兄は生物系を勉強しているらしい。
大学院というのは忙しいらしく、
俊一が食事に呼ばれても最近は姿を見かけないことが多かった。
「そうだ花、俊に見せるんだろ?」
「あ、うん!」
バタバタとリビングへ走ると、
一枚の紙を持ってきた。
「お兄ちゃんコレ!」
と、クレヨンで描いた紙を
俊一に自慢気に見せた。よく描けてるね。と俊一は花に微笑んだ。
「ガッハッハッ!俊、よく来たな!」
豪快に笑った大きな熊みたいな由香里のお父さんは、既に晩酌を始めていた。
「さ、ここに座れ!俺の隣だ!」
と、隣の席をバンバンと叩いて示す。
俊一は大人しく従った。
「花は直兄のとなり~」
花は嬉しそうだ。
微笑ましい様子にみんな笑った。
「さ、ついでくれ。」
料理を運んで来た由香里がふたりの姿を見るなり、げんなりした。
「やめてよお父さん、
俊が来た早々絡むの~」
「何を言うんだ!
俊のついでくれたビールは美味しいんだ!」
「まためちゃくちゃなこと言って~」
「ほらみんな遠慮せず食べなさいよ~。」
と、おばさんも最後の料理をテーブルに置くと席に着いた。
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