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おじさんのグラスが空になったので、
俊一は瓶ビールを手に取りついだ。
「いや、俊。ありがと~っとっと…」
「お父さん、
俊をそんな風に使わないでよ!」
「なんだぁ由香里?
将来の息子にビールを注いでもらって何が悪い。」
俊一は手元が狂い、
ビールをこぼしてしまった。
「は!?何言ってんの?」
由香里が顔を真っ赤にして、
食べようとしていたエビチリを落とした。
「わっ!すいません。」
俊一はこぼれてしまったビールを
おじさんに謝った。
おばさんがあらあらとテーブルを拭く。
「なんだお前ら、
ま~だ付き合って無かったのか?」
おじさん目を丸くして、
ふたりを交互に見た。
「親父、野暮なこと言うなよ。」
直兄が冷静に卵スープをすすりながら言った。
「野暮だってなんだって娘の将来の為だ。
言うことは言わせてもらうぞ。」
「な、…な!」
由香里は口をパクパク開けたが、
言葉は出てこなかった。
ふたりとも顔が真っ赤だ。
「俊。お前がもらってくれなくて、
誰があんなガサツな娘をもらってくれるんだ。
俊には迷惑もかけるが、
少しはいいところも…」
「ちょっとお父さん!」
バンッとテーブルを叩く。
「俊ちゃんが貰ってくれるなら安心だわ~。」
「お、お母さんまで!」
「なぁに~、なぁに~」
花が直兄の裾を引っ張っている。
「いえ…あの。
…由香里、学校で結構人気あるっていうか
…モテてて…。そんな俺とか…」
「なんの冗談だ!
ガハハハッ。
こ~んなガサツな娘が。」
「ちょっと信じ難いわねぇ」
「世も末だな。」
矢継ぎ早に放たれる批判に由香里は反応した。
「なによそれ!ひどくない?!」
「じゃあ、どうなんだ?モテてんのか?」
おじさんが楽しそうに見た。
「し、知らないわよ!」
おじさんの大きな笑い声だけが響いた。
ほら見たことか。
と、おじさんがビールを美味しそうに飲んだ。
橘家の人間は由香里が学校一モテているということなんて、到底信じられないらしい。
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