隣同士 親公認

8/11
前へ
/140ページ
次へ
おじさんのグラスが空になったので、 俊一は瓶ビールを手に取りついだ。 「いや、俊。ありがと~っとっと…」 「お父さん、 俊をそんな風に使わないでよ!」 「なんだぁ由香里? 将来の息子にビールを注いでもらって何が悪い。」 俊一は手元が狂い、 ビールをこぼしてしまった。 「は!?何言ってんの?」 由香里が顔を真っ赤にして、 食べようとしていたエビチリを落とした。 「わっ!すいません。」 俊一はこぼれてしまったビールを おじさんに謝った。 おばさんがあらあらとテーブルを拭く。 「なんだお前ら、 ま~だ付き合って無かったのか?」 おじさん目を丸くして、 ふたりを交互に見た。 「親父、野暮なこと言うなよ。」 直兄が冷静に卵スープをすすりながら言った。 「野暮だってなんだって娘の将来の為だ。 言うことは言わせてもらうぞ。」 「な、…な!」 由香里は口をパクパク開けたが、 言葉は出てこなかった。 ふたりとも顔が真っ赤だ。 「俊。お前がもらってくれなくて、 誰があんなガサツな娘をもらってくれるんだ。 俊には迷惑もかけるが、 少しはいいところも…」 「ちょっとお父さん!」 バンッとテーブルを叩く。 「俊ちゃんが貰ってくれるなら安心だわ~。」 「お、お母さんまで!」 「なぁに~、なぁに~」 花が直兄の裾を引っ張っている。 「いえ…あの。 …、学校で結構人気あるっていうか …モテてて…。そんな俺とか…」 「なんの冗談だ! ガハハハッ。 こ~んなガサツな娘が。」 「ちょっと信じ難いわねぇ」 「世も末だな。」 矢継ぎ早に放たれる批判に由香里は反応した。 「なによそれ!ひどくない?!」 「じゃあ、どうなんだ?モテてんのか?」 おじさんが楽しそうに見た。 「し、知らないわよ!」 おじさんの大きな笑い声だけが響いた。 ほら見たことか。 と、おじさんがビールを美味しそうに飲んだ。 橘家の人間は由香里が学校一モテているということなんて、到底信じられないらしい。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加