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幼馴染
空気をひとつ吸い込むと、木々の香りが鼻腔をくすぐる。学校までの並木道。
見上げると、木の葉の隙間から射し込む日差しがチラチラと眩しい。
緑の青さは、春の若葉色から、夏を示す強い葉色に変わろうとしていた。
この前の猛暑日で間違えて出てきてしまった蝉の鳴き声が寂しそうに聞こえた。
すでに開かれている校門を抜け、校舎へと入る低めの階段を登る。校舎内へ入ると空気がひんやりと冷えていて心地よい。学生の声や走る足音が廊下の造りせいかよく響いていた。スネを打つと痛い(経験済み)階段を登登ってすぐの教室に足を踏み入れた。
クラスの中は誰が決めたのか、教室内はグループに分かれ、自然と棲みわけができている。どの喧騒にも入らず自分の席。窓際の1番後ろの席向かう。
これから荷物を置くはずの机に、
ひとりの女子が寝ていた。
彼女は前の人の椅子に座り、後ろを向いて今から荷物を置こうとしていた机に突っ伏している。
周りの横井たちのニヤニヤとした視線がこちらへと集まる。いつものことだ。彼女が絡むと。
その原因の当人は気持ちよさそうに窓側に顔を向けて動かない。寝ているんだろうか?軽くウェーブのかかった髪、綺麗な白い首筋がちらりと見えた。
「荷物が、置けない。」
瀬良俊一の端的な現状確認に、横井たちが笑った。
その笑い声で、
彼女はその声に目を覚ましたように、勢いよくガバッと上体を起こした。
彼女の動きと共にふわりと柔らかな香りを吸い込んだ。
そんなこと思ってたなんて思われたくなって、くっと眉間に力を入れ表情を固くする。
ん~。っと、彼女が気持ち良さそうな、大きな伸びをする。どうやら、彼女は表情を固くして立っていることを、何とも思ってないようだ。
「ん、ふぁ~。おはよう俊。」
まだ寝起きMAXの様子が、猫みたいだなと思った。
「おはよう、橘。何か用?」
やっと開けたスペース(机の上)に馬鹿みたいに重たい荷物を置くことが出来た。粛々と席に着き、鞄の荷物を机に入れこむ。
1時間目は数学か…
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