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「今日俊の家誰もいないでしょ?」
「あぁ。」
「でね、今日…」
「お断りします。」
俊一は食い気味にお断りした。提案を聞くまでもない。
橘由香里が絶句し、止まって見せた。
彼女とは家が隣同士だ。
高校生にもなって、一家総出で世話を焼かれている。確かに両親の出張は多い。幼い頃は晩御飯をお世話になることも多かった。
でももう高校生だ。
「もう適当に食べれるから。花にも何かやるし。おばさんには上手いこと言っといてよ。」
彼女がふふんっと笑った。
「断れないんだなぁ、コレが。」
いたずらっこの様な微笑みに、
幼い頃の面影が重なって見える。
「野菜が大量に親戚から送られてきたんだって。だから是非来てもらいなさいって。」
「それ、完全そっちの…」
「お母さんが今日は必ず来てもらいなさいって。」
食い気味の返事に含まれる単語に、今度は俊一が動きを止める番だった。隣の席の松本稔が嬉しそうに、
「あの由香里のお母さんが言うなら行かなきゃな。俊一。」
とこの状況を楽しむように言った。
「稔、他人事だと思って…」
稔は俊一の状況を片手間に栗色の髪を風になびかせて優雅に文庫本を読んでいる。
「そういうことだから」
「…あ。」
彼女は自分が言いたいことだけを言い放ち、颯爽と去ってしまった。そして周りで静観したフリをしていた奴らが俊一に集まってくる。
「くぅ~!瀬良、お前羨ましいぞ!
羨まし過ぎるぞ!」
俊一は肩を組まれ、
ぐわんぐわん体を振られる。
「あの橘由香里と幼馴染なんて!」
「なんでお前夕食の誘い断るんだ?
あの橘由香里と家族公認でご飯食べるんだろ?変わってくれ!
俺がお前になる!今からなる!」
「家に行くってことは、
橘さんの私服も見んのか!?」
俊一の周りが一気に騒がしい。
「俺らはお前が羨ましい!」
そう、彼女が絡むと、いつもこんな感じだ。
今去った場所が急に騒がしくなり、由香里が振り返ると、俊が男子たちに羽交い締めにされていた。
「なーにやってんのよ。」
しかし、そういったじゃれ合いが出来る男子たちを少し羨ましく思った。
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