29人が本棚に入れています
本棚に追加
昼休み 彼女が告白されている
「なぁ、わざわざここで昼飯食べる意味ってあるの?」
「おっまえは馬鹿だなぁ~、賢いくせに馬鹿だ。ここでしかダメな理由がわからないだなんて。」
横井は大袈裟に目を閉じ首を振って見せた。
俊一はお弁当の蓋を開けながら
「そりゃあ屋上っていうなら、わかるけど。ここまで登るかな?」
と言った。
俊一と横井は屋上に出る階段の屋根にいた。
お弁当の中身を見ると、相変わらずそれぞれのおかずがぐちゃりと傾いていた。俊一は箸で元いたであろう場所に返してやる。
「瀬良はわかっちゃいないなぁ~。
ほら、この広く澄んだ青い空!
な?
青い空と書いて、青春って読むだろ?」
澄んだ空に横井の声が響いた。
その雰囲気に飲まれそうになるが、いやいや
「……いや、それは青い春だろ。」
横井は自分の失敗に気付き固まった。
「……………優等生は細かいねぇ」
と、言いながらゴソゴソと双眼鏡を取り出し、ある一方向へ狙いを定めている。
「…………え。何してんの?」
「お子ちゃま俊ちゃんにはわかんないこと~」
うん。女子更衣室だろうな、そっちは。
俊一は目の前の奇行を冷ややかに見て見ぬフリしながら、もくもくと白米を口へと運んだ。横井とは空手部で一緒だ。こう見えて彼は部活とエロだけは熱心だ。
「お子ちゃま俊ちゃんもそろそろお年頃、見たいんだろ?
ちょっと見せてやろうか?…
やっぱダメー。」
ニヤけたドヤ顔。
どうやら見せてくれるという選択肢は用意されては無いらしい。双眼鏡を覗き込みながら、実況中継までしてくれている。
「奥さんが決まってるお前とは違って、
俺達一般人は候補者選びから始めなくちゃなんないからな。」
俊一は激しくむせた。
「誰が奥さんだよ!」
「え~、何焦ってんの~?
誰か特定の名前なんて俺出してませんけど〜
誰のこと想像した?」
と横井は俊一にニヤニヤして見せた。
「くっ…」
「けっけっけ。
ほんとからかいがいあるわ、毎回」
そう言ってまた双眼鏡を覗き込んだ。
ガチャ
扉が開く音がした。
屋上は基本立入禁止だ。
とっさにふたりは息を潜めて隠れた。
入って来たのはさっき頭に浮かんでしまったばかりの橘だった。
「お。噂をすれば奥さん登場~♪」
横井は橘に声を掛けようとしたが、
彼女の表情を見て思い止まったようだった。
最初のコメントを投稿しよう!