夢魅る人々

5/255
前へ
/255ページ
次へ
「……太、……雷太!!」 目の前には、微睡と現実の境に立つ僕を必死に現実へと呼び戻す愛梨が居た。 今にも泣きだしそうな表情だったので、申し訳ないと思い、現実へ戻る。 身体を起こすと、柔らかい愛梨の身体と、甘い香りが僕の神経と鼻腔をくすぐり、そこでようやく現実に戻れたと実感できた。 そのまま感覚の戻った両腕でそっと愛梨を抱き寄せて、柔らかい触感と甘い香りを堪能しながら気持ちを落ち着かせた。 「また……魘(うな)されていたよ……。」 「……そっか。心配かけて、ごめん」 僕は片手で抱いたまま、もう片方の手で肩まで伸びる綺麗な黒髪を撫でた。 その心地よい髪質を夢中で堪能していると、愛梨がこそばゆく耳元で呟いてきた。
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加