1635人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
「これ、まだあるか?」
「あ、はいっ」
律が冬瓜の器を指して聞くので、急いで立ち上がった。最初は作る量がわからなくて、やや多目かなという量を作ってしまっている。
「美晴ちゃん。いいのよ、律の分なんか。律、あんた自分でやんなさい」
母親に言われて律が立ち上がろうとする。
「あ、いいですよ。こちらのほうが近いし」
そういって器を受け取り、お代わりをよそって渡した。律が「どうも」と受け取る。本当、無愛想な男だな。
背は高いし男前なんだから、ちょっとニコッとでもしたらすぐに女なんか近寄ってきそうなのにな。もったいない。
「さすが夏子さんの娘さんねぇ。お料理上手だわ。いいお嫁さんになるわよ」
幸子さんが褒めてくれる。隣でツルさんもうんうん頷いて――。
「ほんになぁ。うちに嫁にこんかね?」
また、さっきの話が戻ってきた。こういうとき普通の女はどういう反応をすればいいんだろう。「ありがとうございます」? 「いえいえ、わたしなんて」? 分からない……。
「ばあちゃん、美晴ちゃんに失礼よ。美晴ちゃんなら、こんな木偶の坊みたいな無愛想な男より、もっといい男が捕まえられるって」
いや、俺は捕まえたくないです……。褒められているんだろうけど、本当勘弁してほしい。とりあえず、困ったように笑っておくにとどめた。
律を見ると、完全に無視して食事を片づけていた。きっと母たちからのこういった攻撃には慣れてるんだろう。
そういえば、こいつも俺と同じで女の中に男一人なんだよな。俺のとこは母と妹だけど。
昼食が終わると幸子さんは「銀行に行ってくるから」と律に店番を頼んで出かけていった。俺は後片づけをしつつ、夕食の一品にと少し準備しておく。これも母が言っていた。うちと同じで幸子さんが大黒柱の葛西家は、ツルさんはもう台所には立てないし、幸子さん一人では店と家を切り盛りするのが大変なんだそうだ。
ひと段落してから、もう一度お茶を入れて居間のツルさんに届ける。そろそろ二時だ。
悩んでからコーヒーを入れて、表の律に届ける。律はやっぱり無愛想に「どうも」とだけ言って口をつけた。
最初のコメントを投稿しよう!