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笑うしかない浩一がそう応じると、清人が小さく肩を竦めてから続ける。
「お前は『品行方正な優等生であるべきだ』と周囲も自分自身も思っているうちに、無意識に猫を被る様になったから、ある意味自覚している俺よりタチが悪いぞ?」
それを聞いた浩一は、益々渋面になりながら確認を入れた。
「……それは貶しているんだよな?」
「半分は誉めているんだぞ? 無意識で善人ぶって居られるんだから」
「半分は貶しているとはっきり言え。俺が天然猫かぶりなら、お前は天然詐欺師の分際で、何をほざいてるんだ」
それを聞いた清人は小さく噴き出し、楽しそうに笑った。それに釣られて浩一も苦笑の表情を浮かべたが、すぐに両者は真顔に戻った。
「それでさっきの見合いの話だが、年内中に下調べして年明けにもお義父さんからお前に話があると思う。一応、対応を考えておいた方が良いだろうな」
「……そうだな」
如何にも気が重そうに溜め息を吐いた浩一に、清人が淡々と告げた。
「お前の現状については、お義父さんには詳しく話してはいないが、時間も経っているし意外に何とかなるんじゃないかと、楽観視している様だ」
「大方、お前がそう匂わせたんだろう?」
「そうとも言える」
小さく睨んだ自分の視線を真っ向から受け止め、平然としている清人を見て、浩一は文句を言うのを完璧に諦めた。そして話は終わったらしいと見当をつけた浩一が、食べる事に専念しようと箸と口を動かしていると、少しして清人が思い出した様に口を開く。
「……それで、この際あいつにも、適当な相手を世話してやろうかと考えていてな」
清人がそう口にした途端、はっきりと固有名詞を出していないにも関わらず、誰を指して言っているのかすぐに分かってしまった浩一は、箸の動きを止めると同時に向かいの席に鋭い視線を向けた。それを清人は、面白そうに笑いながらいなす。
「途端に怖い顔をするなよ。これだから天然はタチが悪い。今、自分がどんな顔をしてるか、分かって無いだろう?」
「嫌なら怒らせるな」
如何にも不愉快そうに吐き捨てた浩一に対し、清人が淡々と主張した。
「そう言われても、俺は一応あいつの“御主人様”だしな。あいつも三十になるし、いつまでも馬鹿な事ばかりさせてるわけにいかないだろうが」
「散々彼女に馬鹿な事をさせてきたお前が、今更それを言うのか?」
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