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「だから余計にだ。そろそろ面倒見が良くて、些細な事には拘らなくて、あいつの借金を肩代わりしてくれる金払いの良い相手を見繕ってやるのも、“御主人様”の義務だと思わないか?」
しれっとしてそんな事を口にした清人に、浩一は唸るように小声で尋ねた。
「彼女の意志は?」
「あいつなら『はい、分かりました。その方と結婚します』で終わりだな。真澄との離婚届を賭けても良い」
「…………」
その言わんとするところは、間違い無く恭子が自分の言うとおりにすると清人が確信していると言う事であり、浩一もそれを認めて黙り込んだ。それから気まずい沈黙が1・2分続いてから、清人が呆れ気味の口調で浩一を宥めてくる。
「そもそも当初から、お前が言っていたんだぞ? 『彼女がちゃんと幸せに普通の生活を送っているのを、陰から見られたらそれで満足だから』って。今更ガタガタ文句を言うな」
それを聞いた浩一は、舌打ちしそうな表情で言い捨てた。
「分かった、もう何も言うな。飯が不味くなる」
「ああ、この話は終わりだ」
そうして二人で黙々と食べ続けながら、浩一は何事かをひたすら考え込み、清人はそんな浩一の様子を注意深く観察していた。
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