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見合い相手本人に関する云々ではなく、親の職業や家業について、柏木産業にとってのメリット面の分析を一気に語ってみせた清人に、雄一郎は満足した様に頷いた。
「私も全く同意見だ。それでは浩一に、それとなく話をしてみよう」
「その前に、先方に該当する女性がいる所ばかり選んでいるとは思いますが、交遊関係を含めてきちんと調査した方が良いでしょうね。あまり性格に問題がある様だと、浩一はともかく真澄が『あんなのと義理の姉妹なんて嫌よ!』とブチ切れます」
「確かにな」
冷静に釘を刺してきた清人に、雄一郎は思わず失笑した。そして笑いながら話を続ける。
「それでは年内中に調べてみて、相手方の感触も探ってみるか。詳しい話は年明けだな」
「それ位が妥当でしょうね。機会があったら、俺の方からもさり気なく伝えてみます」
「ああ、頼む。それでは戻って構わないぞ」
「それでは失礼します」
元通りクリアファイルにリストを挟み込んだ清人は、それを雄一郎に渡して一礼し、社長室を後にした。そして人気の無い廊下で、ひとりごちる。
「一気に面倒くさくなってきたな。確かに当初の予定としては、そろそろだったんだが……」
一度携帯を取り出してそれを眺めた清人は、無言のまましまい直して今現在の自分の職場へと戻って行った。
夜、夕食を食べ終えてからリビングに移動し、ソファーに向かい合ってマグカップ片手に雑談をしていた恭子と浩一だったが、話が少し途切れてから、浩一がさり気なく口にした。
「……恭子さん」
「何ですか?」
「後から、俺の部屋に来てくれる?」
「すみません。今、生理中なんです。また誘って貰えます?」
「……悪かった。それなら良いから。気にしないで」
通算で何度目かの誘いを恭子が実にあっさり断ると、浩一は若干気まずそうに視線を逸らしながら、謝罪の言葉を口にした。恭子はその様子を眺め、密かに悩んでしまう。
(『気にしないで』って言われても……。なんか浩一さん、動揺してるし。でもはっきり断る以外に、手段って無いわよね?)
そうして一人で考え込んでから、一応の結論を出した恭子は、冷静に声をかけた。
「……浩一さん」
「何?」
「今、そういう気分なんですよね?」
「別に……、何が何でもしたいという程じゃ……」
動揺しながら口ごもった浩一とは対照的に、恭子はすこぶる真顔で提案してみた。
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