第1章 嵐の前の静けさ

7/8
前へ
/167ページ
次へ
「明日は朝食もお弁当の支度もしないで、ギリギリまで寝ている事にして、駅前のカフェで軽く食べて出勤。どう?」 (どう、と言われても……)  微笑みながら提案された内容を、頭の中で自分なりに検討してみた恭子は、(別にそれでも良いか)と判断して頷いた。 「浩一さんがそれで良いなら、私は構いませんよ?」 「じゃあ、そうしようか。後で寝る時間になったら、部屋に来て」 「分かりました」 (それに一体何の意味が……。やっぱり真澄さん以上に、先生とは別な意味で、浩一さんの思考回路って謎だわ)  取り敢えずそこで一連の話は終わり、飲み終えたカップを持って立ち上がった浩一を見送りながら、恭子は本気で首を捻った。  そして後片付けや翌日の準備も済ませ、後は寝るだけの状態になったパジャマ姿の恭子は、自室の枕を抱えて浩一の部屋へと向かった。 「お邪魔します」 「いらっしゃい。どうぞ」  ノックの後ドアを開けると、同じ様に寝支度を済ませた浩一が、ベッドの上で座って本を読んでおり、恭子の姿を認めると同時にパタンとそれを閉じる。そして場所を壁寄りに少し移動し、空いたスペースを恭子に指し示した。  対する恭子も躊躇う事無く持参した枕をベッドに置き、そこに上がり込んで毛布や掛け布団を引き上げる。 「じゃあ、おやすみなさい」 「おやすみ」  二人で寝るにはギリギリの幅であるセミダブルのベッドであり、かなり密着した状態で向かい合って寝る事になった。しかし意外に不快感を感じないまま、恭子は目を閉じる。 (暖かい……、思ったより嫌じゃ無いかも)  ぼんやりとそんな事を考えていた恭子は、浩一が自分の肩や背中に腕を伸ばし、きちんと毛布や布団をかけ直してから慎重に自分を抱え込む様な姿勢で眠り始めたのを感じて、真面目に考え込んだ。 (浩一さん、急に抱き枕でも欲しくなったのかしら?)  第三者からすればかなり的外れな推論ではあったが、この場にその考えを否定してくれる者など居る筈もなく、恭子はそれについて考えを巡らせる。 (最近は、以前と比べると手元不如意じゃ無いし、浩一さんには色々お世話になってるし。来月のクリスマスにはちょっと奮発して、低反発素材の抱き枕でも贈ろうかしら?)  真剣にそこまで考えて、恭子は目を閉じたまま小さく笑った。 (考えてみたら、誰かにクリスマスプレゼントを用意するなんて、初めてよね?)
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

91人が本棚に入れています
本棚に追加