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「ありがとうございます。思いがけず、弟達の消息が分かって嬉しいです」
「それは良かった」
「あの……、支社長。この事は父には……」
そんな懸念を口にすると、内藤は笑って応じる。
「社長とは顔を合わせたが、余計な事は何も言っていない。安心してくれ」
「ありがとうございます」
(良かったわ。こんな事がお父様とお祖父様の耳に入ったら、血圧が際限なく上がるに決まっているもの)
それを聞いた真澄は安堵して胸をなで下ろし、それからは内藤と社内外の話で盛り上がって、有意義な一時を過ごした。
「それでは失礼するよ。色々話が聞けて良かった。日本を離れていると、やはり時節に疎くなってね」
「いえ、こちらこそご馳走になった上、弟達の事や参考になる話を伺えて良かったです。ありがとうございました」
そうしてエレベーターホールに向かって歩き出した内藤を、一礼して見送った真澄だったが、少し前から気になっていた事を確認するべく、内藤の背中を眺めながら少し大きめの声を出した。
「蜂谷さん、そこに居るわよね? 出て来なさい」
真澄がそう口にした途端、彼女の斜め後方に位置する、観葉植物の鉢植えを三つ並べて配置した、高さが1メートル程の仕切りの陰から、蜂谷が勢い良く立ち上がった。
「はっ。はいぃっ!! ど、どうして俺がここに居ると、お分かりになられたんですか、女神様!?」
入社当初は自分に反抗しまくりだったものの、自分が産休に入る前後に清人からの指導、及び調教を受けて、すっかり従順になってしまった彼が、狼狽しながらオロオロと問い掛けてくるのを見て、真澄は溜め息を吐きたいのを堪えた。
(だって向こう側にいる人達全員、変な顔で観葉植物の下方を見ているんだもの。バレバレじゃない)
しかしそれを一々指摘して指導するのも面倒になった真澄は、腕組みして憮然としながら短く告げた。
「女神の私に、分からない事があると思って?」
そう口にした途端、蜂谷は満面の笑みで真澄を褒め称える。
「確かに、仰る通りでございます! さすがは女神様!!」
「清人に言っておきなさい。支社長とは話をしただけで、内容は帰宅したら伝えるからって。分かったわね?」
「畏まりましたっ!!」
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