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清人が彼の「ご主人様」であり、自分の行動を逐一報告する様に言い含められているのだろうと推察して蜂谷に告げれば、予想通りの反応を返され、真澄は一瞬遠い目をした。しかしすぐに意識を現実に引き戻し、蜂谷がこれからするべき事について言及する。
「それから、スーツの腕や膝に付いた汚れをきちんと落としてから、二課に戻る様に」
「ははっ! 了解しました。それでは課長、ごみは私が片付けますので」
「そう? ありがとう。それでは先に二課に戻ります」
「ご苦労様でございます」
おそらくロビーの床に這いつくばって様子を窺っていた為に、埃が付いたスーツについて注意してから、最敬礼した蜂谷に見送られて、真澄は職場へと足を向けた。
「…………疲れた」
エレベーター内で思わず漏れたその台詞は、浩一達の予想外の行動を知った故か、蜂谷の無駄な忠犬っぷり故か、はたまた清人が嫉妬深くて狭量な所故か、発言した真澄自身にも良く分からなかった。
その日真澄が帰宅すると、蜂谷から注進を受けた清人が待ち構えており、夕飯を食べながら詳細に付いて語る事になった。
「そういう訳で、今日会社で、内藤支社長からこの写真を頂いてきたのよ」
そう言いながら、隣の椅子に置いた鞄から貰った写真入りの封筒を取り出すと、それを受け取った清人が中身を確認して、呆れかえった表情になった。
「社内で真澄が、内藤と顔を合わせたってのはムカつくが……。あいつらはアメリカまで行って、一体何をやっているんだ?」
「激しく同感だし、どういう事情でこんな事をしているのかは皆目見当が付かないけど、元気そうで何よりじゃない?」
真澄が苦笑いして感想を求めると、清人は写真に目を落としながら笑って頷いた。
「そうだな。こんな馬鹿な事を真面目にやる位、元気みたいだからな」
「今度、皆にも見せてあげないとね」
「そうだな。ろくに挨拶もせずに渡米したんだから、この際笑いのネタになる位、仕方がないだろう。皆、腹を抱えて爆笑する事請け合いだ」
そう言って人の悪い笑みを浮かべた清人を窘める事はせず、真澄も楽しげに笑いながら食事を再開した。
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