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一生安泰だと信じていた会社が潰れた。
三十を目の前にして、俺は途方に暮れていた。
入社して七年、結構頑張ってたんだけどな…。
あれから数ヶ月が経ち、その三十歳も超えてしまった。
けれど、俺はまだ立ち直ることが出来ず、実家に引き籠っていた。
「ちょっとお、次の仕事まだ決まらないの?そろそろ何とかしてくれないと困るのよお。」
母親は今日も、ノックすることなく部屋のドアを開け放ち、
寝ている息子の足を踏ん付けるのも構わずベッドに上がりカーテンを開ける。
「いっ…てえな。わかってるって…俺だっていろいろあるんだよ。」
「口ばっかり。父さんも母さんも、いつまでも生きてないのよ?しっかりしなさい。」
そう言ってドタッと重い音をたてて床に下りると、母親は溜息を吐いて出て行った。
「くそっ…そんなことわかってんだよ。」
むしゃくしゃして乱暴に体を起こすと、頭がくらくらした。
あ、ダメだ。もう一回寝よう…そう思った時だった。
窓から、女の人が歩いているのが見えた。
二階のこの部屋からは殆ど見えない小さな庭と、道路を分ける背の高い生垣。
その向こうをヒールを鳴らして歩いている。
樹の間からちらちらと見える顔は、この家の方を向いている。
生垣の外側に母親が植えた花があるから、それを見ているのだろう。
それにしても…。
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