ちょっとそこまで

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「綺麗なコだな…。」 つい口にしてしまうほどの美人に、いつの間にか身を乗り出していた。 なんていう名前だろう、この近所のコかな。 気が付いたら、あのコのことばかり考えていた。 「あーあ、前の俺だったらな。」 今度こそ、もう一度ベッドに寝転がる。 以前の自分なら、あんな綺麗なコを見掛けたら、臆することなく声を掛けただろう。 それなりに自信もあったし、結果も出ていたからね。モテてたんだ。 でも…今ならわかる。俺なんて、あの会社に居るんじゃなきゃ誰にも見向きなんてされないって。 合コンでも、自己紹介で一番に社名を言えば、一人で帰ることなんてなかったもんな。 「あーあ、なんとかしないとな。」 そう呟いて、また眠ってしまった。 次の日、俺は珍しく自分から起きた。それも朝にだ。 理由は一つしかない。 あのコが…もう一度ここを通るんじゃないかって思ったんだ。一目惚れってやつだよ。 現れるかもわからない、顔なんて合わせることも出来ないのに、髪を整えて服も着替えた。 いつものように入って来た母親には、そのままドアを閉められた。 「お父さーん!あの子、おかしくなっちゃったかも!」 って、嬉しそうに階段を下りて行く音がしていたよ。
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