ちょっとそこまで

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「あ、来た!」 その瞬間、なぜか身を潜めてしまった。 なにやってんだろう…ここは二階で、彼女が気付くはずないっていうのに。 そう自分に言い聞かせて、窓の外を眺める。 今日も花を見ているのか、彼女の顔はこちら側を向いていてよく見える。 視線を落として微笑む姿がなんとも美しい。 俺は、ガーデニングを趣味にしている母に心から感謝した。 それから、俺は毎日彼女を待った。 時間はまちまちだったけれど、根気よく待っていれば、ちゃんと彼女は現れたからだ。 雨の日は、傘で隠れた顔を見たくてやきもきした。 暑い日は日傘、そうでなくてもつば広の帽子を被っていた。 どれも似合うだろうが、顔が見られないのは嫌だった。そして、雪が降ればまた傘だ。 いっそ外に出て行って、もっと近くから見たいと思ったけれど、それにはまだ… あれ?俺、いつからこんなことしていたんだろう。 気が付けば、もう一年も経っていた。なにもせず、ただ見詰めていただなんて…バカみたいだ。 彼女のそばに行きたい、話をしてみたい。その為には…。 「よし!やってやるか。」 俺は、片思いだなんて理由で再びスーツを着る決心をした。 朝…大騒ぎする母を尻目に、俺は家を出た。 前のような自分に戻って、いつか彼女に声を掛けよう。そんな希望に燃えてあの道へ出た時だった。
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