03 - 一回目/浮遊感の正体は

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「楽しんできてね」  姉には、偽りの場所を教えてある。  もしかすると、僕の携帯や部屋の中から、今日の出かける場所を調べているかもしれないが……その時に備えて、いくつかプランは用意してある。  がちゃり、とノブを回し、玄関を開ける。次いで、外の音が耳へと流れ込んできて――。 「す……?」  ――全身に、奇妙な感覚が走り抜けていくのが、わかった。  そうして、一瞬。いや、頭のなかでは、何時間もの時間を過ごしているのを記憶しているのに。 「……ただ、いま?」  出て、すぐに入ったかのような、生々しい感覚。  それが、僕の頭と身体に、一瞬でこびりついていた。 (出かけた……僕は、恋人と、デートに行った)  現実感のない記憶とともに、帰宅している自分。  今日の出来事が、すっと、頭のなかに残っている。  姉に隠して、恋仲になった相手と出かけ、映画に行き、食事をした。唇の感触も、身体と記憶には残っている。 でも、 違う。  なにか、一瞬で、それらの感覚をインストールされたような……現実感のないなにかが、僕の気分を満たしている。 「おかえりなさい」  姉の声も、穏やかで、いつもと同じ。  ――あの日と、同じ。 「わたし、これから出かけてくるわ。食材、足りないものがあるから」  そうして、僕の横をすり抜けていく、姉の姿。 (これから、姉は……どこに、行く?)  止めるべきだ。  だって、その結果は、知っているのだから。 (彼女はもう、呼び出されて……姉は、そこに行くのか?)  知らないはずの知識が、頭の中に浮き上がってくる。これから体験する、したはずの、自分でないような感覚とともに。 「行ってくるわね。ご飯……一緒に、食べましょう?」
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